ストレスチェック41|高ストレス者と面接した面接医からの意見聴取と就業上の措置(2016/09/25)
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ストレスチェック41|高ストレス者と面接した面接医からの意見聴取と就業上の措置(2016/09/25)

2016年09月26日(月)10:03 PM

ストレスチェック制度は健康経営のいしずえと捉えるメンタル産業医で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)

今回はストレスチェック実施前に決めることとして、高ストレス者に対して面接した面接医からの意見聴取と就業上の措置についてメンタル産業医で知られる合同会社パラゴンが紹介します。

事業者は面接医による面接指導が行われた後、遅滞なくその面接医から意見を聴取する必要があります(労働安全衛生規則52 条の19)。

そしてストレスチェック指針にあるように、面接医から出された意見に対して企業側は対応を執るのかの判断を行う必要が出てきます。
面接医の意見を踏まえて就業場所や業務内容の変更、時間外労働や勤務時間の短縮、深夜業の回数の減少といった就労支援を行う場合の注意点は、その
面接医の意見を(安全)衛生委員会または労働時間等設定改善委員会へ報告することに加え、指針にで以下の対応を行う必要があるとされています。

①事前にその労働者の意見を聴き、十分に話し合って、その労働者の了解を得るよう努める(危険であると判断するに至ったような場合には、労働者の理解が得られなくても就労制限を課した方が良いと考えます)。

②労働者に対する不利益な取扱いに繋げてはならない。

③面接医と産業医が別の場合、労働者の意見を聴く際には産業医の同席を求めても良い(※著者注:求めなくても良い)。

④事業者は面接医と産業医が別の場合でも、産業医や産業保健スタッフと連携するのみならず、健康管理部門や人事労務管理
部門の連携に十分留意する必要がある。

⑤労働者の勤務する職場の管理監督者(上司)の理解を得ることは不可欠なため、就業上の措置の目的や内容について説明を行う必要がある。

⑥上司の理解を得る際には、プライバシーに配慮しなければならない。

⑦就労支援を提供した後、ストレス状態の改善が認められた場合には、産業医の意見を聴いた上で、元通りの勤務に戻す必要がある。
特に⑦は定期健診や長時間労働者に対する医師による面接指導制度実施後の就労支援には見られない規定です。そもそもこのストレスチェック制度は1 次予防を目的としています。すなわち本人のストレスへの気づきと職場環境の改善が目的にあります。
次回に述べる職場ごとの集団分析の結果を元にした職場環境改善を推進して欲しいとの思いが込められているものと解釈が可能
です。

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1.医師による意見聴取と就業上の措置

労働安全衛生規則52条の19より面接医による面接指導が行われた後、遅滞なくその面接医から意見を聴取する必要があります。そしてストレスチェック指針にあるように、面接医から出された意見に対して企業側は以下の対応を執る必要があるのかの判断を行う必要が出てきます。

 

就業区分

 

就業上の措置の内容

区分

内容

通常勤務

通常の勤務でよいもの

 

就業制限

勤務に制限を加える必要のあるもの

メンタルヘルス不調を未然に防止

するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少又は昼間勤務への転換等の措置を講じる。

要休業

勤務を休む必要のあるもの

療養等のため、休暇又は休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。

 

 

面接医の意見を踏まえ、上記のような就業場所や業務内容の変更、時間外労働や勤務時間の短縮、深夜業の回数の減少といった就労支援を行う場合の注意点としては、その面接医の意見を(安全)衛生委員会または労働時間等設定改善委員会へ報告することに加え、指針に以下の対応を行う必要があるとされています。

 

イ:事前にその労働者の意見を聴き、十分に話し合って、その労働者の了解を得るよう努める(※著者注:最終的に得られなくても就労制限という名の就労支援を提供することは可能です。そもそも医師による面接の対象になった背景には高ストレス者であるとの区分があります。就労支援を提供しなければ最悪、自殺にまで至りかねないと判断できるような高いストレスに曝露させ続けていることを面接医も、そして別に産業医がいるならばその産業医や、更には企業側も危険であると判断するに至ったような人命を尊重すべき場合には、見過ごせません)。

ロ:労働者に対する不利益な取扱いにつなげてはならない。

ハ:面接医と産業医とが別の場合、労働者の意見を聴く際には産業医の同席を求めても良い(※著者注:求めなくても良い)。

ニ:事業者は、面接医と産業医とが別の場合でも、面接をしなかった産業医であってもその産業医や産業保健スタッフと連携するのみならず、健康管理部門や人事労務管理部門の連携にも十分留意する必要がある。

ホ:労働者の勤務する職場の管理監督者(上司)の理解を得ることは不可欠なため、就業上の措置の目的や内容について説明を行う必要がある。

へ:上司の理解を得る際には、プライバシーに配慮しなければならない。

ト:就労支援を提供した後、ストレス状態の改善が認められた場合には、産業医の意見を聴いた上で、元通りの勤務に戻す必要がある

 

特に「ト」は定期健診や長時間労働者に対する医師による面接指導制度実施後の就労支援には見られない規定です。そもそもこのストレスチェック制度は1次予防を目的としています。すなわち本人のストレスへの気づきと職場環境の改善が目的にあります。次回に述べる職場ごとの集団分析の結果を元にした職場環境改善を推進して欲しいとの思いが込められているものと解釈が可能です。

 

上記の指針などをもとに注意点をまとめると以下のようになります。

・事業者が就業上の措置(就労支援)を行う場合には、あらかじめその労働者の意見を聴き、十分な話し合いを行って、その労働者の了解が得られるよう努める必要があります。そしてその労働者の不利益な取扱いに繋がることをしてはいけません。

・就労支援にてストレス状態の改善が見られた場合には、産業医の意見を聴いた上で、元通りの勤務に戻す必要があります。

・緊急に就業上の措置を行わなければならないときには、可能な限り速やかに行わなければなりません。

 

注釈

指針: 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成27 年4 月15 日心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号)

 

 

  • 面接医以外からの意見聴取

面接指導を実施した医師が、その事業場の産業医ではない場合には、労働者の勤務状況や職場環境など、事業場の特徴を把握していないこともあるでしょう。その際には、面接指導を実施した医師の意見に加え、産業医からの意見を聴くことは可能です。

例えば地方の支店や営業所のように、その事業場の規模が50人未満であるため産業医が選任されていない一方、本社には産業医が選任されている企業は多くあるでしょう。その場合、医師による面接指導を実施する医師の役を会社側としては“本社の産業医をいちいち出張させて担わせるのではなく、地元の外部機関の医師に面接指導を任せたい。しかし意見は本社の産業医に聴きたい”と考えたくなる場合もありましょう。面接指導を実施する医師は、事業場外の精神科医や心療内科医である場合など、選任されている産業医で以外の医師が担っている場合には、労働者の勤務状況や職場環境を十分に把握しているとは限りません。何しろ第7回で記載したように面接医の中には面接指導する労働者に対して、“患者”のように感じてしまった場合には、中立公平な客観的立場の、かつ労使双方がwin-winになるような意見ではなく、患者寄りの立場に立脚した一方的な意見を述べる場合がありえました。そして、いわゆる新型うつ病といわれるタイプの中の「ディスティミア親和型」という性質を持つ労働者である場合には、企業側が本人のために良かれと思って提供している、例えば資質を向上させることが可能な技能習得の場に対しても、「ハラスメントではないか」という誤解を抱く場合もありえました。そのような場合には面接医の中には労働者の話を鵜呑みにし、安易に配置転換を会社側に求めてくることになりえます。このような事態に対応するため、マニュアルでは選任している産業医からも、面接指導を実施した医師の意見を踏まえた意見を聴くことを認めています

意見の内容は就業上の措置だけではなく、必要に応じて作業環境管理、作業管理、健康管理の徹底や、労働者向けや管理職向けの健康教育、過重労働対策やメンタルヘルスケア体制の確立など、労働安全衛生管理体制の見直しに繋がる内容も含まれることが望ましいとされています。契約している産業医のこれら労働衛生における経験が心もとない場合には、産業精神保健(メンタルヘルス)に造詣の深い労働衛生コンサルタントに、第三者的見地からの意見を求めることも対処の一つです。むろん、日頃から会社内でのメンタルヘルス水準を高めるべく積極的な人的資源への投資を行う等、会社側からの主体的な対応があれば、影響の拡散を防止できます。

 

なお、職場環境の改善に関する意見は、人事労務管理に関するものが多いでしょう。その場合には、人事労務担当者や上司とも連携して対応することが重要です。

もし、上司によるハラスメントのように、職場の人間関係に問題がある場合には、プライバシーへの配慮とともに人事労務担当者と連携した慎重な対応が必要となります。

 

  • 面接指導の結果と保存

 

 

 

 

  面接指導結果報告書

対象者

氏名

 

所属

 

男・女

年齢     歳

勤務の状況

(労働時間、

労働時間以外の要因)

 

疲労の蓄積の状況

【長時間労働者のみ】

0.   1.   2.   3.

(低)           (高)

心理的な負担の状況

【高ストレス者のみ】

(ストレスチェック結果)

A.ストレスの要因     

B.心身の自覚症状     

C.周囲の支援       

(医学的所見に関する特記事項)

 

 

 

その他の心身の状況

0.所見なし  1.所見あり(                    )

面接医師判定

本人への指導区分

 

※複数選択可

0.措置不要

1.要保健指導

2.要経過観察

3.要再面接(時期:         )

4.現病治療継続 又は 医療機関紹介

(その他特記事項)

               

 

就業上の措置に係る意見書

就業区分

0.通常勤務   1.就業制限・配慮   2.要休業

就業上の措置

労働時間

の短縮

(考えられるものに○)

0.特に指示なし

4.変形労働時間制または裁量労働制の対象からの除外

 

1.時間外労働の制限       時間/月まで

5.就業の禁止(休暇・休養の指示)

 

2.時間外労働の禁止

6.その他

 

 

 

3.就業時間を制限

   時   分 ~   時  

労働時間以外
の項目

(考えられるものに○を付け、措置の内容を具体的に記述)

主要項目

a. 就業場所の変更 b. 作業の転換 c. 深夜業の回数の減少 d. 昼間勤務への転換 e. その他

1)

2)

3)

措置期間

      日・ 週 ・ 月    又は     年  月  日~   年  月  日

職場環境の改善に関する意見

【高ストレス者のみ】

 

医療機関への

受診配慮等

 

その他

(連絡事項等)

 

           

 

医師の所属先

  年  月  日(実施年月日)

 

医師氏名

 

 

       

 

 

 

  • 治療費

 

面接医が要通院と判断し精神科医への紹介状を記載し、それに労働者側が従い、実際に精神科医を受診した後の診療に関わる保険点数や医師などへの報酬に関して、特段の新たな規定は構築していません。今後も指針を公表することはなさそうです。通院した先の精神科医が診察し、病名がつくのなら、既存の健康保険に基づく診療報酬請求が労働者に対してなされます。 

 

 

  • 後段の構え

 

地方の支店や営業所のように、その事業場の規模が50人未満であるため産業医が選任されていない一方、本社には産業医が選任されている企業の場合、2とは逆の場合も想定しておく必要があります。それは地域によってメンタルヘルスに長けた医師を確保し辛い制約があるからです。中には、医師による面接を1件あたり6万円とつり上げておき、元から契約している心理職による補足的面談(1件2.4万円)に企業側からの需要が流れるように設計している業者も確認されています。そのような業者との契約にて後悔した企業の中には、本社の産業医にICTを使って面談指導を担わせる企業も出てきています。確かに面接医を産業医が担うので、企業側からしたら利便性が高いです。ただし、本社の産業医に、全国津々浦々の医療事情にまで長けていることを願うのは無理な願いです。著者も例外ではないからです。

 

医療が必要だと面接時に判断したとします。医療機関を紹介し辛いだけではなく、紹介状を記載したとしても本人の元に届くにはタイムラグがどうしても生じてしまいます。前者に関しては限られたICTによる面接時間内で紹介状を書くことは面接医の負担になりえます。ターミナル駅に“コンビニチェーン”化したメンタル特化型クリニックを開設している医療機関が、それも複数ある首都圏とは違い、地域によっては精神科や心療内科の看板を掲げる医療機関は元々少ないというアクセスの問題があります。駐車場に自家用車をとめていたことがその地域の噂の種になるような偏見が残っているような閉鎖的/排他的地域では、隣町に通院するような配慮をしなければならない場合もあります。こう考えると、医師による面接が1件6万円も要することは自然な話なのかもしれません。ともあれ、地方社員をICT面談する場合には、医療機関確保に難渋することが想定されます。確保までの間、勤務軽減を行うと共に、ICTを使ったオンラインカウンセリングを受けてもらうという療養を提供するという、“後段の備え”が具有されていると、安心感は違ってきます。 

 

 

 

出典:さくらざわ博文.もう職場から“うつ”を出さない!.労働調査会

 

 

 





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