ストレスチェック43|メンタルヘルスアクションチェックリストの活用(2016/11/25)
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ストレスチェック43|メンタルヘルスアクションチェックリストの活用(2016/11/25)

2016年11月27日(日)2:24 PM

メンタル産業医によるストレスチェック制度の十二分な活用が、健康経営に資するということでプロフェッショナル産業医と知られる合同会社パラゴン(東京都港区)がお届けしているこのシリーズ。

今回は「ストレスチェック実施後、働きやすい環境づくりの為に -その① メンタルヘルスアクションチェックリストの活用―」という題です。

そもそもストレスチェックは、構築することが目的ではなく、いきいきと働きやすい職場環境を形成するための道具です。そのために企業全体や部署ごとの組織分析である「集団分析」があるのでした。すなわち、全国統計をベンチマークとすることで、「働きやすさ」という観点からの全国的な位置付けが企業や産業医は把握できるようになります。産業医がより良い労働環境形成のために意見する際、全国統計と比較した上で、具体的対策を提供する必要があります。集団分析は無償で実施する業者が標準になりつつある中ですが、このような労働衛生・産業精神保健、メンタルヘルス対策はメンタル産業医が熟慮する部分です。むろんここで必要になる具体的に働きやすくする取り組みは産業医だけではなく、外部の社会保険労務士を活用する方法もありでしょう。
その方法の紹介が今回の最大の目玉です。

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1.メンタルヘルスアクションチェックリストとは

職場におけるメンタルヘルスケアにおいて、個別対策だけでは効果が一時的かつ限定的です。職場全員で話し合いながら、働きやすい職場環境づくりが可能となるツールが利用可能です。それが「メンタルヘルスアクションチェックリスト(ACL)」です。このACLは6領域に区分された働きやすい職場環境づくりの方法が把握出来るヒント集です。わが国の職場にて役立ったとされた改善事例集から抽出されました。中小企業でも簡単に、職場環境の評価と改善が出来るように、いわば参考事例集の構成になっています。

 

A.作業計画への参加と情報の共有;情報の共有、作業量の調整

B.勤務時間と作業編成;ノー残業デー設定、ピーク作業時の作業変更、交代制導入、休日確保

C.円滑な作業手順;物品の取扱い、情報入手、反復作業の改善、作業ミス防止

D.作業環境;温熱、騒音、有害物質、受動喫煙防止、休憩設備整備、緊急時対応

E.職場内の相互支援;相談しやすさ、チームワーク作り、職場間の相互支援

F.安心できる職場のしくみ;訴えへの対応、教育研修、仕事の見通し、評価の公平・公正化、メンタルヘルスケア

 

2.ACLの目的

ストレスチェックと同様に、芳しくない部署の把握や同定ではありません。点数化さえしません。ある職場で実施可能な仕事環境の改善方法を検討し、取り組みやすい改善点があれば、参考にして取り組んでもらうことを目的としています。従ってヒント集にある各項目は、その職場の欠点を指摘するのではなく、どのように改善すればより働きやすい環境づくりにつなげられるのか、具体的な取り組み方が示されています。

 

3.ACLの特徴

・このチェックリストを照らし合わせることでその職場にて元より出来ている良い点がわかります。

・改善が必要な箇所も簡単に把握可能です。

・把握された要改善箇所、改善点をグループ討議の題材とすることで、優先して改善すべき点が把握できるだけではなく、改善のためのヒントが理解可能です。

・働きやすい職場環境形成を学ぶことが可能になります。

・様々な角度から職場を捉える視点が得られます。

・改善を重ねることで、ストレスの多い職場環境とはどういうところなのかまで、理解可能になります。

・職場の様々な立場の労働者が参画することで、それぞれの立場から、働きやすい職場環境づくりに寄与することが可能になります。

・厚生労働省が定めた「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(いわゆる「メンタルヘルス指針」)を満足することも可能になります。

・中小企業でも、産業保健スタッフが常勤でいなくても、取り組むことが可能です。

・創意工夫を重ねることで費用を抑えながら、効果的な職場環境の改善の実施が可能です。

 

4.ヒント集の内容

 

http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/ACL/ACL2004春バージョン.pdf  から一部 をここに引用 

 

 

5.実際の使い方

 

働きやすい職場環境づくりのためにACLを活用する方法は以下の順に実施します。

 

働きやすい職場環境作り実施手順

 

<①対策への合意形成>    <②参加と周知>               <③改善の討議と立案>      <④対策実施と評価>

○上司へのフィードバック         ○職場の情報の収集           ○討議ツールと場の設定         ○フォローアップの実施

 
   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 対策への合意形成

職場全体が一丸となって改善に取り組んだ方が、仕事はよりしやすくなります。そのためには関係者全員に対して合意形成を行い、改善へ取り組むのだ!という機運を高めたいものです。そこで職場のトップからの理解を求め、安全衛生方針として取り上げてもらいます。メンタルヘルス対策の社内方針として取り上げてもらいます。キーパーソンとなる職場の管理監督者へのストレス調査結果などのフィードバックや、内外の指針や先進企業・職場の取り組みの紹介を通して、働きやすい職場環境づくりがメンタルヘルスケアの一つとしてとても重要であることを伝えます。

 

  • 参加と周知

働きやすい職場環境づくりを効果的に進めるためには、その職場の状況や情報を収集します。例えばすでにストレス対策として取り組まれた事例を収集します。直接ストレス対策を目的としていなくても、快適な職場つくりに役立った職場環境改善、たとえば受動喫煙防止や長時間残業対策、最近行なわれたレイアウト変更など、すでに職場で取り組むことができた改善に注目します。改善された職場の写真などがあるとなお良いでしょう。また、ストレスの原因について上司や労働者に意見を聞き、ストレスの原因となる要因について職場内の情報を収集します。その上で、より仕事しやすくするための職場環境改善に向けた話し合いへの参加者を募ります。その話し合いの場は勤務時間内に、そして業務の一環として設けられることが望ましいです。

 

  • 改善の討議と立案

以上の下準備を経た上で、ACLを使った複数によるグループ討議とその結果発表の場が設定できることになります。グループ討議では1グループは5-8人になるようにし、各グループにて進行役、書記、発表者を決めます。そしてACLを参考にしながら、既に実施されている良い工夫や改善事例を3つ挙げてもらいます。よい実施済みの事例をまず取り上げることで、議論が活発になり、自由に意見がでるようになります。次にこれから改善したい点を3つ挙げてもらいます。改善策を検討する際には、心身の負担に関連する職場環境や労働条件にも幅広く目配りして優先順位をつけていきます。「ストレスチェック」による集団分析結果も参考にすると良いでしょう。職場の上司がメンバーに入ることで、労働者が話しにくくなることが想定できるのであれば、まずは労働者だけでグループ討議を行い、全体発表会から上司に参加してもらうという工夫を加えると良いかもしれません。

討議のおおまかな流れ例は図のとおりです。持ち時間について説明し、後はグループの自主的運営にまかせます。全グループの発表が終わったら、優先的に実施する改善提案について職場の管理監督者が中心となってできるだけその場でまとめます。

討議結果は文書記録しておくと、今後の対策実施計画への参考資料とすることにもなります。また、仔細は成書に譲りますが、厚生労働省が実施を推奨している「リスクアセスメント」にも繋がります。

 

④対策の実施と評価

グループ討議の結果から出てきた改善提案を、誰が責任者として、その実施に必要な調整・交渉を行うかをあらかじめ決めておくことが大事です。人事・労務や他部署との調整や予算措置が必要な対策が提案される場合もあるからです。この責任者には多くの場合その職場の管理監督者がなることが多いですが、場合によっては人事・労務担当者であったり、小さな事業場では提案を検討した職場グループそのものが改善の実行責任者となる場合もあります。

討議された結果(職場改善のアイデア)を、職場の管理監督者や安全衛生担当者が部署ごとに取りまとめ、具体的な実施の手順をきめます。

改善提案を踏まえた対策の実施状況を確認するために、定期的なフォローアップと評価も必要になります。ストレスチェックの結果が改善しているのかも大切な指標になります。良好な実践事例については表彰を行うと、モチベーションの維持と向上をはかることが出来るのみならず、横展開が容易になります。

 

出典:小田上公法,小林祐一.コンサルタントが知っておくべき職場のメンタルヘルス対策の知識.安全衛生コンサルタント2014年1月号

出典:櫻澤博文. ストレスチェック面接医のための「メンタル産業医」入門.日本医事新報社、2016/10/10





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