ストレスチェック51|キャリアコンサルタントによる集団分析結果や働きやすいの実践、応用、発展
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ストレスチェック51|キャリアコンサルタントによる集団分析結果や働きやすいの実践、応用、発展

2017年05月28日(日)4:00 PM

メンタル産業医の命名者で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)が提供してきたストレスチェック制度構築に初めて携わる人事労務担当者でも理解しやすい、「ストレスチェック」シリーズも51回目となりました。

 

①ストレスチェック実施における流れの紹介と、各段階の要点を把握してもらうことで、実施実務をより容易に実行してもらう。

②ストレスチェック制度の本来の目的である、働きやすい職場環境づくりに対して、どのようにストレスチェックの結果を生かしていけばよいのか、具体的な実施実例を紹介。

③単にストレスチェックは、実施して終わりだともったいないことから、より働きやすい職場形成を目指す方々に向けて、キャリアコンサルタントという国家資格を持つ実務家からの活動施策事例をストレスチェックを参考紹介。

 

ストレスチェック制度の本来の目的は、働きやすい職場環境形成を、労使双方が一丸となってかなえていくことにありました。2016年度はストレスチェックが制度化されてから、実際に実施すべき初年度でした。連載の進行と共に、大半の事業者は、同時進行でこのストレスチェックを初めて実施しました。「集団分析」実施が努力義務であることを危惧していましたが、悪い予感はあたりました。これまでも法定であった定期健診の事後措置さえも、満足に実施してこなかった事業者が、優先するのは経済原理なのでしょう。そのためか、レッドオーシャン(赤潮/血の池地獄)の大浪に巻き込まれ、淘汰されているストレスチェック提供業者が2017年には確認され始めました。



医師による面接指導や、精神科等の専門医また心理カウンセラーによる治療的措置といった、つまりは「二次予防」という早期発見・早期治療の導入が実行できていたら良い方です。これがストレスチェック制度の具現化しえた初年度の現実の姿です。

しかし現実に迎合してばかりいては、売り手市場の人材難時代、人的資源投資を怠る企業として労働市場から淘汰を受けてしまうでしょう。そこで今一度、職場活性に向け、2016年4月に国家資格化された「キャリアコンサルタント」が、働きやすい職場環境形成に向けて、その国家資格化されるに至った背景から、為すべき役割や、活躍することで得られる展望について整理しなおした上で紹介していきます。

そのために今回は、事業、組織・人事に関わる戦略の立案、及びその実行支援を行うコンサルティングや自ら企業を経営した経験を踏まえて記載しました。事業の維持・成長には、その舵取りに携わる者がそこで働く人々の心の動きに敏感であることがいかに重要なのか 身をもって理解している立場だからです。同時に、さまざまなキャリア上の選択を、ある時は自ら望んで行い、ある時はそうせざるを得ない波にのまれて行い、またある時はその波にただただ漂うしかなかったこれまでの人生の中で、自身の働き方、生き方に戸惑い、ただその中で、とあるキャリアコンサルタントと出逢い、その助力を得られたことから、それまでの深い苦悩の淵から道を切り開いてきたという、実経験をも持つ立場です。従って、個人の働き方・生き方、そして組織活性の双方に貢献しうるキャリアコンサルティングの意義を、より多くの、なかでも日常的に事業経営や人事労務に携わる方々に、“肉声”を通じて語りかけるにふさわしい! と推考をした結果がこの文章になっています。平易な内容にもあえて触れているのは、応用の理解を容易化するためです。

 

  • 「キャリアコンサルタント」とは

わが国のキャリアコンサルティングの源流は、20世紀初頭の米国にあります。当時の米国は、農業から鉱工業への産業構造の転換を経て著しい経済成長をもたらした反面、社会構造の変化から様々な問題を抱え込んでいました。その1つが目先の就業機会に飛び付く若者達の早期離職で、その後、生活苦から犯罪へ走ることも多く、これに対して、適性を判断した職業マッチングを図る職業指導運動(職業ガイダンス)が教育現場に浸透していきました。

その米国では、経済や社会の変化の中で職業ガイダンスから職業カウンセリング、キャリアカウンセリングと概念を広げ、様々な知見を開発し、社会の隅々まで浸透していきましたが、その担い手は非常に難度の高い米国カウンセラー資格者のために人数に限りがありました。1990年代の米国は重化学工業から情報化社会への構造転換を図り、その為にクリントン政権の雇用政策ではニューマーケットでの雇用創出、これを支える労働力の質向上の施策が打たれました。その施策の1つに米国カウンセラーより業務を限定したキャリア支援の実務者であるCDF(Career Development Facilitator)の制度を作り、多くの支援者を輩出したことです。実は、これがわが国で2000年前後に各民間団体が導入したキャリアカウンセラーのモデルとなりました。

そのわが国は1993年にバブル経済が崩壊、1997年下半期から1998年にかけては大手金融機関が相次いで破綻、就職氷河期と呼ばれ有効求人倍率が1を割り非正規雇用に代わっていきました。活路をクリントン政権下の雇用政策研究に求め、2001年、キャリアカウンセラーを公民併せ5万人養成するという国会答弁がなされることになりました。

あくる2002年、厚生労働省職業能力開発局の重要政策軸として、名称を「キャリアコンサルタント」に修正し、民間団体の資格レベルの標準化を進め、更に2008年には技能検定制度を設け、熟練者や指導者を認定するようになりました。

   2016年4月、職業能力開発促進法が改正され、「キャリアコンサルタント」は国家資格となりました。法律でキャリアコンサルタントが規定されたことは、将来、省庁枠を越えた他の法律との組み合わせ展開もあるかもしれません。差し当たり、この法律の改正では、国レベルの産業構造の転換に寄与するべく、①労働者自らがキャリア自律(職業生活の設計とそのための能力開発)の責任を持たせたこと、②事業者にその支援を課したこと、③その支援の中核をキャリアコンサルティングとする仕組みとしたこと、などが改正要旨となります。

もっとも、企業領域でのキャリアコンサルタントは2割程度(8,000人)しかおらず、新たに設けられたキャリアコンサルタント10万人養成計画(2025/3月目標)の増員分6万人は、この企業領域であると云われるのでこれからですが、しかし、ここに力が入っています。

   高齢少子化社会による生産者人年齢口の減少は既にニュース番組でよく聞きます。中小企業に於いて何人採用しても直ぐ辞められてしまうと頭を抱える事業者が他人ごとではなくなるでしょう。また、あと10年もせず、今の仕事の半分はAIに取って代わられるという調査に自身の仕事を照らし合わせた労働者も多くおられるでしょう。今の仕事が無くなってもAIを活用した新たな仕事が生まれるのはスマートフォン誕生後を見れば想像できますが、新たなスキルを身に付けなければならないと云う事です。2045年、コンピューターが人間の知性を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えるというNHKの番組を観た20歳台の若者なら尚更に将来の我が身を考え込みますね。

 臨戦態勢の北朝鮮対米国問題といった国際秩序や人口構造の変化から、わが国を取り巻く経済情勢や日本社会は、間違いなく大きな変化に巻き込まれていきます。戦後のわが国の成長を支えた、終身雇用という雇用システムの維持が、いよいよ困難になりつつある段階に至っています。これら社会構造の大変化を前にして、労働者は闇夜の山中に取り残されたような不安を、いよいよ強く感じる毎日になりえます。そのような場合であっても、キャリアコンサルタントは周囲の状況を探る杖となり、道を探す役を果たします。すると労働者は、「我々にはキャリアコンサルタントが付いている」と胸を張り、果敢に困難にも立ち向かう気力を取り戻すことができます。雇用している事業者も、「実に頼もしい従業員に恵まれたものだ」と、経営力の高まりを実感することが期待されます。

 

 

  • キャリアコンサルタントが注目される背景

さかのぼること2002年に厚生労働省の「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」で、これからの時代のキャリア形成について、下記のような認識が共有されていました。

 

  • 長期安定雇用が保障される中、職業生活のあり方は基本的に企業まかせ。学校教育も大企業への採用を目標に、成績・学校によって切り分け。社会的に一律かつ集団的な教育・就職システムや企業内システムが当然視。
  • しかしながら、現在我が国労働者は、企業間競争が激化し、大企業といえども倒産のリスクを避けられず、誰しも突然失業する可能性や、技術革新の急激な進展やニーズの変化により、労働者が長年にわたって蓄積してきた職業能力が無になる可能性が生じる等の変化に直面。
  • こうした最近の環境変化は、これまでのシステムを根底から揺るがしつつあり、現在は、過度に集団的なシステムからより個人に配慮したシステムの構築への転換期。

 

労働者の長期的な雇用の保証(と同時に、労働者に対する統制)という制度が継続しえない社会が到来するという想定のもと、「会社まかせ」ではなく、個人が主体的に自身のキャリアについて考え、準備していくことの必要性が謳われています。今を見越したような議論が行われた背景には、生産年齢人口の減少により、労働力がいよいよ不足となることが想定されていたからです。国会でも、いわゆる「ニート」といった無職の若者や、「非正規雇用」で不安定な生活を送る若者の雇用機会や職業訓練機会を増やすための議論が重ねられてきました。そのなかから、2015年9月「勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律」が成立します。そこで、1970年に施行された「勤労青少年福祉法」が「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)として名称を含め抜本的に改正されました。青少年に対し、国がキャリアコンサルタントによる相談機会の付与、ジョブ・カード(職務経歴等記録書)の活用や職業訓練等の措置を講ずる旨が記載されています。その際、一定の質をもったキャリアコンサルタントが相談業務にあたれるよう、国家資格化について検討されてきたという経緯があります。勤労青少年福祉法と合わせて、職業能力開発促進法も一部改正され、キャリアコンサルタントの国家資格化が明記されました。

 

   一方、2013年、オックスフォード大学のマイケル A.オズボーン准教授が「雇用の未来(The future of employment)」という論文を発表しました。日本では、2015年に野村総合研究所がオズボーン准教授らとの共同研究により、日本版を提起しています。そこでは、調査対象とした601の職業のうち49%にもわたる職業が、ここ20年の間に人工知能やロボットに代替される、つまり、人が行う仕事としては失われる可能性が高いと予想しています。この4月に入社したばかりの新社会人が40代になった頃、会社どころか自分の仕事がなくなってしまう可能性さえあります。

 

これらに対して労働者個々人が備えるとしたら、自身のライフプラン・キャリアプランを考え、自律的に仕事と会社を選択し、モチベーションと生産性を高め、成果の達成に努力するという働き方へ移行することになります。実際、改正職業能力開発促進法第3条第3項にて、「労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする。」と明記されました。労働者個人が、その個人にあった「キャリア」を形成する責務を負うことが規定されています。その支援役がキャリアコンサルタントです。

同時に、第10条第3項にて、事業主に対しても、労働者に対するキャリアコンサルティングの機会の確保などに関する努力義務が課せられています。

 

また厚生労働省は、「「日本再興戦略」改訂2015」「日本再興戦略2016」を通じて、「セルフ・キャリアドック」の普及施策を展開開始しました。この「セルフ・キャリアドック」とは、企業の人材育成ビジョンに基づき、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援することを目的として、体系的・定期的なキャリアコンサルティングの実施等からなる統合的な取組みのことで、キャリアについても定期的に振り返るたな卸しの機会を提供する内容を示します。労働者の働く意欲が高まり、定着率も向上させ、結果として企業の生産性が上がることが期待されています。実際2016年より、「セルフ・キャリアドック導入支援事業」というものも始まり、経営課題に即した人材育成ビジョンを有し、キャリアコンサルタントによる定期的なキャリアコンサルティングが提供できる等の条件でモデル企業が選定されています。成果や課題の検証を行い、導入マニュアルや就業規則等の開発につなげていきます。また、助成金についても、リーマンショック以降の雇用の維持調整に関わる取組みへの助成金から、労働者の正社員化、人材育成、処遇改善といった企業内での労働者のキャリアアップを支援する取組みに対する助成金へと変化してきています。このキャリアアップ助成金は、2017年4月より、これまでの3コースから8コースに拡充し、コースによっては支給限度額を倍増させるなど、さらなる充実策が加えられています。

 

4.労働者個人に対するキャリアコンサルタントの役割

キャリアコンサルタント、あるいは、キャリアカウンセラーの持つイメージには、近所の話好き/世話好きなおばさんや、親身に助言してくれる上司、味方となって応援してくれる家族があるのかもしれません。

実体験に基づいたキャリアコンサルタントが提供する支援としては以下が挙げられます。

 

①「自己理解」の支援、

②アクションへの具体的指導、

③応援

 

「自己理解」とは自分が何をしたいのか、何ができるのか、そして何に価値をおいているのか、といった人生観に関するたな卸しです。

 

“本来の自分は、いったい何に価値をおいているのか”、社会情勢や周囲の状況に対して、

“その人の視点では、どのように把握や理解しているのか”

ということを、その人自身が、正確に把握や理解することは重要です。なぜならば、年齢を重ねると、いわゆる「世俗の垢」にまみれてしまい、本来の自分の志向性が忘却されてしまいます。ではなく、上記のようなたな卸しをすることで、鎧のようにがんじがらめに覆っていた世俗の垢の中にある、“ありのままの姿”・・・等身大の自分を知りなおすことができます。すると、気負う必要がなくなるから、気持ちの面で気軽になります。結果として、良い方向性に歩みを進めることが楽に選択できます。

 

ある事情で留学を諦め、急遽就職することにした大学4年生例:

新学期を迎えた4月だと周囲は、「マスコミに行きたい。そのために予備校にも通ってきた」「消費財メーカーで、日常的に役立つものの普及に努めたい」「得意なプログラミングを生かして起業したい」「地元に帰って公務員になる」等々、それぞれが志望する業界、企業を明確にして、具体的な就職活動を進めている状況です。その学生は「自分が何をやりたいのかわからない」という戸惑いのなかで、「なぜ、みんなにはやりたいことがあるのだろうか。ない自分はおかしいのだろうか?」とある種の孤独感を抱えているため、就職活動にも積極的な姿勢を持ちえませんでした。「心からやりたい!と思っていないのに、このまま進めていいのだろうか?」「志望理由が何も書けない」と悩んでいます。

 

<クエスチョン>

読者の皆様は、上記学生に、どう指南するでしょうか。

 

「4年生にもなって、大学生にもなってやりたいことがわからない、などということ自体がわからない」「就職活動から逃げる口実ではないか」「まずはやってみろと諭す」「就職活動の具体的な方法を教えてあげよう」  という指南も行われていることでしょう。

職業人としてのキャリアコンサルタントならば、心裡では「今の若者はけしからん!」と思ったとしても、それを諭すようには行動しません。「何かやらなくちゃいけないと思いながら決断できないでいる」「そう思いながらも相談という行動はできている」「自分の行動を考える時に周囲の動向が気になる」「ちゃんと考えて会社を選ばなければと、仕事選びを誠実に考えている」「そんななかで、志望理由を前に、自分の中にないものを強いられて苦しいと感じている」といった、相談者が何を思い、何を感じ、何をどう考えているか、キャリアコンサルタントが理解した相談者の姿を、あたかも鏡のように映し返す作業をまず行います。

結果として相談者が「このキャリアコンサルタントは自分を理解しようとしてくれる、理解してくれる」という感覚を覚えれば、信頼関係が生まれ、自然とその相談者は深い内省へと入っていくことが可能になります。やがて、キャリアコンサルタントは、専門家としての見立てを投げかけることもあるでしょう。「仕事を選ぶ時の軸は、100%やりたいことだけでしょうか?」など。そこで、相談者が自分の捉え方について何らかの気づきが生まれたら、自然に行動変容につながる段階へとキャリアに関する成長が促されていきます。

 

多くの方がイメージしやすいよう学生の例でしたが、社会人になっても、忙しい毎日で寝る間もなくストレスで凝り固まった状態を何とか脱したいという時、配属された先が希望の部署ではなくこのまま会社にいていいのかと立ち止まった時、長期の海外赴任から帰国した途端、慣れない国内業務の管理職に就き部下の指導にも困った時、上司とのトラブルでこのままその人についていっていいのかわからなくなった時等、働く上で遭遇する困難な場面は、「危機の機は機会の機」よろしく、自己理解を深めることが出発点になれば、新たな成長への階段を上る発展への展開となる可能性を秘めた場面になりえます。それを容易化するのが、「カウンセリング」の訓練を積んだキャリアコンサルタントです。キャリアコンサルタント自身も、自らに沸き起こる感情や自身が持つ認識を理解したうえで、相談者を捉える訓練を積んでいます。「大学4年でやりたいことがわからない」という状況を「けしからん」と思ったとしても、相談者にとってそれはどういう意味なのか、海外赴任の辞令に悩んでいるということに、「いいチャンスではないか、何を悩んでいるのだろうか。行ってみたら?」と思ったとしても、相談者にとってそれはどういう意味なのかを捉える、といったように、キャリアコンサルタント自身に自然に湧き出る感情や独自の認識を認めた上で、それを切り離して制御し、相談者の“あるがまま”を理解しようとします。その理解した姿を伝え返すなかで信頼関係をつくり、相談者の気づきを促し、一緒に課題を見つけていくという協働作業を執行します。記述することは簡単でも、実際に実行することは容易ではありません。訓練を積んだキャリアコンサルタントが意識する流れの一例を紹介します。

 

参考:厚生労働省HPよりキャリアコンサルティングの流れ

冒頭にある「自己理解」こそが出発点であり、この「自己理解」の深化が最も重要です。

 

2つめの「アクションへの具体的な指導」は、さまざまな職業情報、人事労務に関わる知識を得たキャリアコンサルタントからの具体的な助言を示します。例えば、求職活動においては、履歴書・職務経歴書の書き方、面接準備についての助言、キャリアップであれば、その職務に必要な能力開発の方法についての提案などがあります。

  3つめの「応援」とは、心の支えと言っても良いでしょう。親しい友人、家族、上司・同僚などからも同様に心の応援をしてもらえるかもしれません。悩んでいる時は、とても不安になり、過度に自信を失ったり、自分を責めたりすることもありますが、自己理解を共に深めたキャリアコンサルタントとは、いわゆる同士のような信頼関係が結ばれますので、そうした存在が見守ってくれていると感じることは歩みを進めるうえでの大きな希望と支えになります。

 

 

5.組織に対するキャリアコンサルタントの役割

 

労働者個人が自己理解を深め、意思決定を行うことで主体的な行動変化が得られます。そ個々人の意欲が、集団として拡大し続ける延長には、組織全体の生産性向上が期待できます。

例えば、キャリアコンサルタントが学ぶ重要な理論のひとつに、Schein, E.H.が提唱した「キャリア・アンカー(Career Anchor)」という概念があります。船から海に下ろす錨のように、その人がキャリアを選択する際に大切にしているもの、譲れないものという意味です。シャインは8つのキャリア・アンカーを定義しました。

専門コンピタンス                Technical/Functional Competence

経営管理コンピタンス        General Managerial Competence

自律(立)                           Autonomy/Independence

安定                                     Security/Stability

起業的創造性                       Entrepreneurial Creativity

社会への貢献                     Service/Dedication to a Cause

チャレンジ                           Pure Challenge

全体性と調和                       Lifestyle

 

そして、それらは人生の経過とともに変化していくことが往々にしてあります。筆頭著者の例でいうならば、以下のように表現されます。

「10代後半から20代前半はチャレンジや起業的創造性を最も大切にしていた。何か新しいものを生み出したいという思いを元に、いろいろなところに足を運び、好奇心の赴くまま、まずは取り組んでみたいという気持ちを元に経験を広げてきた。

20代半ばから30代前半は、経営コンサルティングや事業経営を行っていたこともあり、経営管理の志向が強かった。組織・チームをどう理解し、目標に向けてその力をどのように結集させて成果を出すかを考えた。

現在は、専門や自律、社会への貢献の志向が強い。自身の領域でできることを深め、そのことで自律性を保ち、同時に、深めた知識・技術・スキルで世の中に貢献することに喜びを感じる。」

 

このように、読者一人ひとりにも、それぞれの物語があるものです。自身の「キャリア・アンカー」という、大切にしたい価値感をあぶり出し、それに沿ってキャリアの方向性が描けると、おのずと主体的になり、意欲が湧き、活力を持って行動できるようになります。 事業者側が、労働者一人ひとりのこの「キャリア・アンカー」を重要視すると、その労働者の職務・職場への定着率は必然的に高くなります。そのためにも、個人の自己理解を促し、キャリア形成の支援を担うキャリアコンサルティングの存在は、ひとりひとりが仕事に向き合う意識と意欲を高め、結果として組織の活性化を生み出す大切な存在です。

 

 

6.個と組織とをつなぐキャリアコンサルタントの役割

 

およそ企業の経営者たるもの、その経営する企業や組織を成長や発展させる為には、従事する労働者の気持ちや感情を含めた心の動きに、どれだけ敏感な感覚を持つのか、実に重要だと考えます。理由は筆頭著者には以下の経験があります。いわゆる自転車操業状態を続ける企業の経営の建て直しに奔走していた経験です。経営管理の知識を総動員し、有効だと判断した対策を講じている中、ふと帳簿をみると、そこに記載された「人件費」という数字が一人歩きしはじめました。「人件費」は生命の営みを重ねる「人間」への投資という理解ではなく、間接費を構成する勘定項目の一つを示す数値という存在としか把握しえない視野狭窄に陥ってしまいました。間接費を構成する、“コスト”を示す数値の一つとしか把握が至らなくなれば、本来ならば、その「人間」は、将来の売上や、更には利益を生み出す財産という理解は二の次になってしまいます。つまりは、“コスト”としか把握しえないため、その「人件費」をいかに削るかに血眼になってしまいます。実際には、言動にもその理解が表現されはじめる結果となり、必然的にそれら労働者からの、信頼という、自分自身の財産をも失っていき、最終的には清算に至るという辛い結末を迎えました。「人間」を、一人ひとりが気持ちや感情をもつ存在なのだという、当たり前といえば当たり前の前提を忘れた末の、当然の結末でした。そんな中、筑波大学名誉教授の渡辺三枝子氏は、「欧米では、カウンセラーはカウンセラー室で来談者を待つ人ではないといわれて久しい。むしろ、「変化を創り出す」ために個人と環境に積極的に介入できるプロなのである」(出典:オーガニゼーショナル・カウンセリング序説)と、キャリアコンサルタントが個人と組織の両方に貢献できる可能性を論じています。実際、個人と組織との間の潤滑油のような役割を担うキャリアコンサルタントも出現しています。2017年4月3日付日本経済新聞朝刊に、トッパン・フォームズ執行役員の寺上美智代氏の記事が掲載されていますが、寺上氏が一例です。氏は約15年続けた仕事で行き詰まりを感じたそうです。そのキャリアの危機を打開するためにキャリアカウンセリングを学び資格を取得されました。その後も勤務を継続した末に配属された能力開発部で、社員が「キャリア」について、主体的に考える新しい研修手法等を生み出したそうです。執行役員になった現在、同社社員がより働きやすくなるような仕組みづくりに従事している姿が紹介されていました。これまで紹介したキャリアコンサルタントの組織変革関与例が、外部からの支援例に対して、寺上氏の例は、内部からの支援例になります。支援される中で、組織で働く人々が職場、家庭、社会といったさまざまな環境の中でどのようなことに影響され、何をどう捉えるか、それによってどう行動する可能性があるかまで思いを巡らされてこられたことだろうと想像します。これらのことは現代、忙しい毎日のなかでは難しい現実があるのかもしれません。しかしながら、組織の維持・発展には重要な要素です。多様な個人の有り様と、そのひとりひとりの力で動く組織という相互に作用しあう両者を潤滑油にようにつなぎ、互いに異なる文法を通訳し、更には両者の発展や発達という歯車がより高速に回転するような助力を加えていくような役割をキャリアコンサルタントは果たす存在にもなりえるものです。

 

7.おわりに

  諸外国と比べても、安全で安心して暮らせる豊かな社会や経済状況を築き上げてきたわが国は、今後想定される人口減少により、その国体を維持できるのか、そのために必要な労働力という国家的財産をいかに確保していくのか、そしてその労働力が衰弱化する傾向があるなか、生産性を維持する方法はあるのか、これら複雑な方程式の解法をキャリアコンサルタントは、記述した「自己理解」を促す作業の末、導出する職能を今後も担い続ける存在です。労働者個人の活力を高め、働きやすい職場に整え、組織の持続的な成長を支えていくという重要な責務を果たす存在だから。そして個人に対してだけでもなく、組織に対してだけでもなく、双方に対してwin-winになるような、更には組織と組織、社会と社会の双方に対してもwin-winとなるような働きかけを積分しえる存在です。そのために、労働者一人ひとりが、その個人という立場からも、事業所という集団という存在からも、キャリアコンサルタントの有用性に更なる理解を深めてもらい、かつその和と輪が拡大するよう積極的に活用や関与してもらうことを希望します。凡そわが国の企業活動の中に、これらキャリアコンサルタントによる支援が浸透すると、個人と職場の活力がさらに増すような、つまりやより豊かな社会が到来することと期しつつ失礼します。

 





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