|人が壊れない職場と組織をつくるメンタル産業医|合同会社パラゴン
人を診て終わるのではなく、人が壊れない職場と組織をつくるために
私は、産業医という仕事を、単に健康診断の結果を判定し、病気になった人を診て、就業できるかどうかを判断するだけの仕事だとは考えていません。
長年、働く人たちと向き合う中で、私は何度も問い続けてきました。
なぜ、この人は病気になったのか。
なぜ、この職場では同じような不調が繰り返されるのか。
なぜ、声を上げた人が孤立し、誰かが壊れるまで組織は変わらないのか。
一人の労働者の不調だけを見ていても、その背景にある職場環境、人間関係、仕事との不適合、過重労働、不公平な人事、声を上げにくい組織風土が変わらなければ、また次の不調者が生まれます。
だから私は、人を診て終わるのではなく、人を壊す原因となる職場や組織の仕組みまで診る産業医でありたいと考えてきました。
目指しているのは、
人を病気から守るだけではなく、その人が自らの力を取り戻し、健康とキャリアと人生の主人公として働き続けられるよう、職場や組織にも働きかけていく産業医
です。
その根底にあるのは、
人は、使い捨てられる「労働力」ではない。誰もが育つ可能性を持つ、かけがえのない主体である。
という考えです。
私は、人を疲弊させ、使い尽くしては別の人に置き換える「焼畑式経営」ではなく、人に投資し、人を育て、その人が成長することで組織もまた強くなる「循環型経営」が必要だと考えています。
人を大切にすることと、企業を強くすることは、決して対立するものではありません。本来、同じ方向を向くべきものです。
産業医は労働者側だけに立つ存在とも、会社側だけに立つ存在とも考えていません。
従業員側にも必要なことを申し上げる。
会社側にも必要なことを申し上げる。
治療や再検査が必要であれば、本人に受診や自己管理を求めます。一方、職場環境や長時間労働に問題があれば、会社に改善を求めます。ハラスメントの訴えがあれば軽視せず、しかし一方の話だけで断定することもありません。
それこそが、私の考える産業医としての「中立性」です。
中立とは、何も言わないことではありません。誰にも嫌われないように沈黙することでもありません。
必要なときに、必要なことを、医学と産業保健の専門性に基づいて申し上げる。そして、会社と従業員の双方が、より良い方向へ進めるよう働きかける。
それが本当の中立であると考えています。
また私は、人の健康を、単に「病気であるか、ないか」だけで見てはいません。
人には身体があり、心があり、そしてキャリアがあります。
その人は何を得意としているのか。何にやりがいを感じるのか。どのような仕事なら能力を発揮できるのか。今の仕事と、その人自身の本質的な志向は合っているのか。
身体の健康だけを見て、心やキャリアを見なければ、本当にその人を支援したことにはならない。私はそう考えています。
だからこそ、産業医は診察室の中だけにいてはいけません。
職場を見て、人事や管理職と対話し、保健師、看護職、安全衛生担当者、キャリア支援職など、異なる専門性を持つ人々と協働する必要があります。
また私は、企業不祥事、ハラスメント、長時間労働、隠蔽、声を上げられない職場風土も、単なる法務やコンプライアンスの問題ではなく、**「組織の健康問題」**であると考えています。
病気になった本人だけを治して同じ環境に戻しても、組織が変わらなければ、また同じことが起こるかもしれません。
だから私は、「メンタル産業医」の命名者として
ならない
出さない
こじらせない
ということを大切にしてきました。

人が壊れてから対応するのではなく、壊れる前に気づく。不調をこじらせず、一度回復した人を再び同じ環境で傷つけない。
それは個人を支援すると同時に、職場と組織を変えていくことでもあります。
そして今後、私が社会で担いたい役割は、自分一人が良い産業医であり続けることだけではありません。
これまで見てきた職場、向き合ってきた労働者、成功も失敗も含めた経験を、次の世代に残したいと考えています。
若い産業医や保健師、人事担当者、安全衛生担当者に伝えたい。
人を診て終わってはいけない。
職場を見てほしい。組織を見てほしい。
その人のキャリアを見てほしい。
そして、自分の専門領域に閉じこもらず、他者とつながってほしい。
問題が起きたとき、誰か一人を責めて終わるのではなく、その背景にある仕組みまで見てほしい。次に来る人が、同じ苦労をしなくて済むように、少しでも良い仕組みを残してほしい。
私自身も、気づいた課題を黙って後任に残すのではなく、言葉にし、問題提起し、次の人が少しでも良い環境で仕事を始められるようにしたい。それもまた、産業医の責任だと考えています。
産業医とは何者なのかを、社会にもう一度問い直したいと思っています。
産業医とは、働く人の身体と心だけでなく、キャリア、職場、組織、経営との関係を見つめ、人と企業の双方が持続可能であるよう支援する医師である。
人を診て終わらない。
人が壊れない職場をつくる。
人が壊れない組織をつくる。
働く人が、自らの健康とキャリアと人生の主人公であり続けられるよう支える。
そして、自らの経験を次の世代へ伝え、より良い産業保健の仕組みを社会に残す。
それが、櫻澤博文の志です。

