タイヨウ・パシフィック・パートナーズのブライアン・ヘイウッドCEOによる日本企業のガバナンスの評価は「この30年、日本企業は大きな価値を生み出せず、従業員の給料も上げられなかった。ステークホルダーの代表である従業員すら幸せにできない「迷子のガバナンス」だった」と手厳しいです。
そんな中 以下のように、健康経営銘柄に選考された企業での産業医の位置づけが紹介されていました。
産業医と言えば勤務中に具合が悪くなった時にお世話になる先生のイメージが強いだろう。だが丸井グループの産業医、小島玲子氏は執行役員として経営に関わり、投資家向け広報(IR)の場にも登場する。コロナ禍が続くなか、従来の枠を超えた産業医の役割が注目されている。
小島氏は病院での勤務などを経て、2011年に丸井専属の産業医になった。昨年、執行役員に就任、ウェルネス推進部の部長も務める。
健康を損なう社員が相次ぐと企業経営は大きな影響を受ける。丸井では早くから社員の健康は経営の問題と位置づけ、産業医の意見も踏まえ健康増進のイベントや研修を実施してきた。取り組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同で定める「健康経営銘柄」(40社)に小売業で唯一、選出されている。
ただ「健康がゴールではない」と小島氏は言う。社員の活力を引き出し、企業価値の向上にどうつなげるか。一つの試みが社員の幸福度ややりがいの「見える化」だ。
日立製作所の協力で、スマートフォンに内蔵したセンサーで身体運動のデータを採取し、幸せと感じる度合いを測定。社員はどんな働き方をすれば数値が上がるか確認しながら行動を変えていく。
この実験を3週間続けた後、社員へのアンケートで「心の資本」とよばれる指標を調べた。米国の経営学者ルーサンス氏が提唱した概念で、自信を持ち行動する力や物事の明るい面を見る力などで構成され、収益と相関があるとされる。丸井によると「心の資本」は0.27ポイント上昇。膨大なデータを基にした換算式で、営業利益を5.3%増やす効果があるとの結果が出た。
あくまでこれは一つの試算だが、「社員の幸福度は経営に資する問題であると示せた意義は大きい」と小島氏は話す。実験結果は専門家の立場から投資家にも自ら説明、より実効性のある指標となるよう検討を続けるという。
海外では米ジョンソン・エンド・ジョンソンが全社員を対象に、より生き生きと活動し能力を最大限に発揮する方法を学ぶ研修を実施。2100万ドルの投資に対し、パフォーマンス向上などでその約6倍の効果があったという。
「社員の幸福」という物差しを投資家も重視する。コモンズ投信の渋沢健会長は「健康や幸福など様々な要素を含むウェルビーイングを意識した経営に取り組む会社が評価される」と指摘する。
心に関わる問題は難しい面もある。精神科医で経営戦略と産業医の関係について論じた著書もある尾林誉史氏は、「メンタルに関する指標は確立していない」と話す。心拍数から緊張度を測定したり、オキシトシンという幸福ホルモンを測ったりする方法も模索されているという。
コロナ禍で心身ともに健康の重要性が高まっている。様々な面で最新の医学の知見を経営に生かせるだろう。50人以上の従業員がいる事業所に選任が義務づけられる産業医が、これからは企業の競争力を左右するかもしれない。
以上。健康経営に長けた産業医で知られる合同会社パラゴンの紹介でした。
出典:日経新聞2020年7月28日朝刊「心の資本」を企業価値に