ストレスチェック34|ストレスチェックの実施期限ついてメンタル産業医が解説

今回はストレスチェックの実施期限を紹介します。

メンタル産業医を目指している産業医の先生方おかれましては、『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の実施マニュアル』(以下 マニュアル)を元に、産業医の先生方が産業医サービスを提供している産業医先:「常時使用している労働者が50 人以上いる」という会社が、所轄の労働基準監督署から、実施報告書提出が遅いということを臨検の根拠の一つとされないためにもいつまでにストレスチェックをメンタル産業医として完了させたらよいのか、メンタル産業医にふさわしい対応を知っていると良いからです。

出典:厚生労働省労働基準局安全衛生部 労働衛生課産業保健支援室.労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル

ここで「常時使用している」とは、契約期間(1年以上)や週の労働時間(通常の労働者の4分の3以上)をもとに判断するのではなく、常態として使用しているかどうかで判断しなければなりません。したがって、例えば週1回しか出勤しないようなアルバイトやパート労働者であっても、継続して雇用し、常態として使用している状態であれば、常時使用している労働者として50 人のカウントに含めなければなりません。また、派遣先事業者に労働者が60 人(内20 人が派遣労働者)という場合、正規の労働者は40 人しかいなくても、事業場の人数の数え方は派遣労働者を含めてカウントするため、そのような派遣先にはストレスチェックの実施義務があり、派遣先は40 人の正規労働者に対してストレスチェックを実施する義務が生じることになります。この場合、派遣先事業者は派遣労働者に対しストレスチェックを実施する義務はありません。派遣労働者20 人に対するストレスチェック実施は指針に基づく努力義務になります(職場の集団ごとの集計・分析は元から努力義務です)。
このように労働者の数え方は一般定期健康診断の対象者とは異なるので、対象となる事業所は多くなること、注意が必要です。

一番遅いケースでいうならば10月末までにストレスチェックそのものの実施準備に取り掛かることで間に合うこと、次のフローからおわかりになります。

ストレスチェック実施準備 (10月末)
              ↓    おおよそ1ヶ月  
ストレスチェック       (11月末)
              ↓    結果出力後速やかに
本人に結果通知      (12月中)
              ↓    概ね1ヶ月以内
本人からの面接指導の申し出  (翌年1月中)
              ↓    概ね1ヶ月以内
医師による面接指導の実施  (翌年2月中)
              ↓    概ね1ヶ月以内
医師から意見聴取    (翌年3月中)
              ↓    (定めなし)
事後措置         (年度末である3月末)

★ 上記はあくまでストレスチェックを初回、実施する際の最終期限を紹介しました。マイナンバー制対応も課されている年末調整や年度末の業務繁忙期と重なる点、考慮に入れておいてください。

★ 上記では、ストレスチェック実施機関に業務が集中し、対応が遅れたり、面接医が確保出来なかたったりする可能性が出る危険性もお忘れなく。


☆ 実施日程を考慮する場合についてです。嘱託産業医との契約が月に一度、1回につき2-3時間程度の契約の場合には、定期健康診断の結果が返ってくる時期と重ならない工夫が必要となります。産業医としての就労上の措置判定や芳しくない健診結果を示した社員との面談が数ヶ月は必要だからです。

契約先には、そのまま活用するだけで、必要な書式・様式等が完成するような雛型を無償提供しております

注釈
指針:参考サイト:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成27 年4 月15 日心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号) 

 

 

☆☆細ストレスチェック制度を社内で実施できる条件とその判別チャート☆☆☆

毎月、(安全)衛生委員会を開催している →いいえ→  ①
            ↓         
            はい                          
            ↓
毎月、定期的な産業医訪問がある→  いいえ  → ② 
            ↓                                   
            はい                          
            ↓
その産業医は「実施者」を担える  →いいえ → 「実施者」の心当たりがある → いいえ または 不明 → ③
            ↓
           はい                                
            ↓
人事権ない人事総務担当者が「実施事務従事者」を担える   →   いいえ または 不明  →   ④
              ↓
            社内での実施が可能です。

①:労働安全/衛生コンサルタントや社会保険労務士に管理体制構築&運営支援を仰ぎましょう*。 
②:定期的な産業医訪問の為の予算確保が先です
③:外部機関に、「実施者」を委託する必要があります。「実施事務従事者」の業務が担えるかどうかは、人事権ない人事総務担当者が、ストレスチェック制度の一連の作業に従事してくれるかどうか次第になります。
④:外部機関に、「実施事務従事者」の業務を委託する必要があります。

*平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(いわゆる「メンタルヘルス指針」)が示されました。これにより各事業所は、その実態に即した形で、以下のようなメンタルヘルス対策が積極的に取り組まれることとされています。「心の健康づくり計画」を策定するとともに、その実施に当たっては、関係者に対するメンタルヘルスに関する教育や研修の機会を設けたり、「4つのケア」といわれるセルフケア・ラインによるケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケアを効果的に推進し、職場環境の改善やメンタル不調への対応、職場復帰支援を円滑に行うことが示されています。今回の「ストレスチェック制度」は、これらの取り組みの効果を確認する、いわば体温計や測定器です。「メンタルヘルス指針」に基づいた対応を執ってこなかった企業では、この際、弊社や社会保険労務士の支援を得ながら、これらメンタルヘルス対策の充実を図ることをお勧めします。


注釈:
 「実施者」:ストレスチェックの実施主体となれる者であり、「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」(法第66 条の10 第1項)とされています。ここでの厚生労働省令で定める者とは、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師もしくは精神保健福祉士です。マニュアルでは日頃から当該職場の状況を把握している産業医が実施者になることが最も望ましいとされており、次いでその事業場の産業保健活動に携わっている場合にのみ、精神科医や心療内科医等の医師、そして前述要件を満たした精神保健福祉士や保健看護職が担当できます。従って単なるかかりつけ医や主治医は担えません。

[ポイント]ストレスチェック結果の評価と、本当に医師による面接が必要なのか判断する立場です。

実施事務従事者」:実施者のほか、人事権はない者のうち、実施者の指示により、ストレスチェックの実施の実務(個人の調査票のデータ入力、結果の出力事務、個人の結果の保存(事業者に指名された場合に限る)、面接指導の申出の勧奨等を含む。)に携わる者を指します。実施者と同様に人事権を有する者はなれません。人事権を持つ者が衛生管理者を兼ねている場合にはその衛生管理者はなれません。

[ポイント]ストレスチェック実施事務担当者です。外部機関の職員でも構いません。特定社会保険労務士に担ってもらうことを合同会社パラゴンは推奨しています。

32601d4e-ada0-454c-8fb6-a0a56b4dcf5e-original

談話:本質から鑑みる

ストレスチェックを行う際にも健康経営に長けたメンタル産業医で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)は単に やったら良いのだろうという姿勢で臨むことはしません。その結果に基づく医師による面接指導、面接指導結果に基づく就業上の措置、ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析など、一連の取組全体を実施するよう産業医先に提案します。このストレスチェックは労働者における仕事によるストレスの程度を把握し、早期に対応することで、メンタルヘルス不調となることを未然に防止するという「1次予防」を目的として実施されます。

☆ ストレスチェック制度の三大特徴

「1次予防」という目的遂行のために主に3つの特徴があります。

① ストレス・マネジメント:労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(以下、ストレスチェック)の実施後、ストレスチェックの結果を労働者自らが把握することで、ストレスの状況について気付きを行うと共に、「ストレス・マネジメント」といいますが、ストレス因子(ストレッサー)への上手な対応を行うきっかけにすることが可能となります。

② 医師による面接・指導制度:「長時間労働者に対する医師による面接指導制度」(労働安全衛生法第66条の8、9)によってこれまでは、月あたりの超過労働時間数が100時間等の長時間労働に従事していた労働者しか希望できなかった医師による面接制度が、ストレスチェックを受けた労働者のうち、一定の基準を超した方(高ストレス者)であれば、希望すれば全員受けることが可能となりました。以上より、労働者がメンタルヘルス不調に陥ることを未然に防止するという「一次予防」の取組みが強化されることで、精神疾患による休職者数発生が抑制されることが期待されます。マスコミは、いわゆる「ブラック企業」という造語を元にした報道を行っていますが、精神障害による労災請求数と労災支給決定件数は増加する一方です。労災請求数については平成26年度1456件と、前年度から47件増加しました。労災支給決定件数は平成26年度には61件増の497件になりました(うち、未遂を含む自殺も99件へと36件も増加)。その背景には、メンタルヘルスに取り組んでいる事業場の割合は60.7%(平成25年労働者健康状況調査)に過ぎず4割近くの事業場は取り組まれていないことが挙げられます。
そんな中、ストレスチェックの実行や医師による面接によって、メンタル失調によって休みがちな社員の発生が少なくなるだけでも、組織全体としての生産性は向上するでしょう。

③ 集団ごとの集計・分析というベンチマーキング: ストレスチェック結果の集団ごとの集計や分析というこれら組織分析結果は、これまでに得られている全国統計をベンチマークとしてそれと比較することで、その集団の、いわゆる“働きやすさ”という視点からみた、全国での立ち位置が把握できるようになります。結果としてどのような対策を執ったらより働きやすくなるのかまで考察できるようになることから、企業での職場環境の改善につなげられるようになります。すなわち組織分析から得られた職場環境改善対策にて、労働者にとっていきいきと働きやすく活力あふれる快適職場の形成が可能となります。

以上より、ストレスチェック制度の活用にて生産性向上も期待出来るようになります。また活用方法によっては、その企業の魅力や社会的評価を高めることさえも可能になる制度といえましょう。

総務省統計局による「人口統計」にて、15~64歳の人口である生産年齢人口が8, 726万人とピークを迎えたのは、今から20年も前の1995年のことでした。“失われた20年”という言葉を裏付けるようにその後の生産年齢人口は年に100万人の単位で減少し続け、2015年6月1日時点(直近時)の7,718万人と比するとこの20年のうちで12%もの生産年齢人口が失われています。同局による今後の人口推計からみると、今から20年後の2035年には生産年齢はピーク比の73%へと約3割も 、2045年には同61%と約4割も、生産年齢人口が減少することが想定されています。企業の存続の要件として優れた社員を雇用し、もしくは雇用し続けるためにも、「メンタルヘルス指針」に基づいた「心の健康づくり計画」策定、管理監督者へのメンタルヘルス研修、メンタル不調者に対する職場復帰支援を始めとした就労支援、そして今回の「ストレスチェック制度」導入と、上記の目的を踏まえた一連の人的投資の最大化が求められるところです。

出典:「人口推計」(総務省統計局)