ストレスチェック50|「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」報告書から

平成28 年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)
「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」(H28-労働-一般-004)報告書から、主だった結果を抜粋してみました。産業医に限らず、有用な情報なので紹介します。

『全国調査による制度評価:労働者調査』

2,599 名(66.4%)から回答を得た。うち引き続き常勤で雇用されていた2,481 名を解析した。

ストレスチェックの実施連絡があったのは41%(51 人以上事業場では40-59%)、受検率は91%、

高ストレス者は受検者の14%、高ストレス者のうち医師面接の実施は17%、職場環境改善の経験は6%であった。

ストレスチェックに「本当のこととは違ったことを回答した」者は3.9%あった(表2-7)。事務・販売、製造従事者でその割合が高かった。

 

ストレスチェックの受検は心理的ストレス反応の改善には有意な効果を示さなかった。ストレスチェックを受検し職場環境改善を経験した群で、未受検者とくらべて心理的ストレス反応が改善しており(効果量-0.14)、基本属性を調整した後も有意であった(p=0.040)。

ストレスチェック受検者では非受検者と比較して1.8 ポイント(効果量で0.05)、労働生産性が改善していたが有意な差ではなかった。他の要因を調整した場合には差は有意傾向であった(p=0.05)。

職場環境改善は非実施と比べて、-2.3ポイント(効果量で0.09)労働生産性が悪化していたが有意な差ではなかった(p=0.061)。

受検なしで職場環境改善を経験した場合に、ストレスチェック未実施とくらべて、労働生産性は-7.3 ポイント(効果量で0.20)悪化しており、他の要因を調整した場合に有意であった。

高ストレス者のうち、医師面接を受けた者では受けなかった者にくらべて、労働生産性が15.6 ポイント(効果量で0.37)悪化していたが、有意ではなかった。

休業日数部分を除く勤務時の労働生産性については、ストレスチェックの各項目による勤務時の生産性の改善の差は有意ではなかった。

 

ストレスチェック実施の周知があった場合には受検率は約9割と高かった。高ストレス者の割合は約4%であった。これは当初想定されていた10%よりも低い値である。本研究の回答者はベースラインでは平均的な労働者よりも職業性ストレス要因が多く心理的ストレスが多い状態であった。

しかし本研究者の回答者が偏っていたり、あるいは回答者が正しく高ストレス判定を理解していない可能性もあるので注意が必要である。契約社員、派遣社員では受検率が低かった。雇用不安を感じやすいこれらの労働者がストレスチェックへの参加を見合わせた可能性もある。

 

ストレスチェックを受検し職場環境改善を経験した群で、未受検者とくらべて心理的ストレス反応が改善していた。

事業場316 件(69.6%)のうち、ストレスチェックを実施した事業場は87%、約8割の事業場で受検率は80%以上であった。高ストレス者の頻度は、10%以上20%未満、5%以上10%未満が多かった。

従業員1人あたりの費用も中央値で1,753 円、平均値で5,929 円と昨年調査より2倍程度に増加していた。特にストレスチェック実施の外注費が今回調査で大幅に増加していた。

 

『全国調査によるストレスチェック制度の効果評価:労働者調査』

 

ストレスチェック制度の施行前に調査に回答した全国の労働者約4000 名に対して制度施行後1年目の12 月初旬に再度調査を実施し、ストレスチェック制度の実施状況およびストレスチェック制度の効果を評価した。

 

ストレスチェックの受検は心理的ストレス反応の改善には有意な効果を示さなかった。ストレスチェックを受検し職場環境改善を経験した群で、未受検者とくらべて心理的ストレス反応が改善し(効果量-0.14)、基本属性を調整した共分散分析で有意であった(p=0.040)

ストレスチェックを受検し職場環境改善を経験することが心理的ストレス反応の改善に効果があることが示された。

 

『全国調査によるストレスチェック制度の効果評価:事業場調査』

従業員参加型の職場環境改善は4%で実施されていた。

 

『日本人労働者における職場環境改善と仕事関連ストレスとの関連:平成24 年労働者健康状況調査に基づくマルチレベル横断研究職場環境改善』

は200 事業場 (19.5%) で実施されていた。

 

男性では、職場環境改善の実施が重度の仕事関連ストレス (3+) と有意な負の関連を有した一方で、女性では関連が有意でなかった。

これらは日本の職場環境改善効果の実態を把握した初めての知見であり、効果の男女差を解消する必要があることを示唆するものであると考えられる。

男性においては、職場環境改善の実施により3つ以上の仕事関連ストレスを抱える労働者がおよそ20%低減できる可能性が示唆された。

 

一方、女性においては職場環境改善の実施は仕事関連ストレスの低さと関連を持たず、むしろ、有意ではないものの仕事関連ストレスの高さと関連していた。現在日本で実施されている職場環境改善のストレス低減効果は、女性において未だ明らかでないと考えられる。女性において有意な関連が認められなかった理由として、女性がパートタイムのようにひとつの職場に長く留まらない職種に多く就いていること (Dahl-Jorgensen & Saksvik, 2005)、職場環境改善で重要な役割を果たす管理監督者に男性が多いこと (Mikkelsen &Saksvik, 1999) 等が考えられる。したがって女性は、職場において少数派となることが多く、職場環境改善による利益を受けにくい可能性がある。

 

もう一つの理由として、女性は男性に比べて職場の心理社会的要因から影響を受けにくいことが挙げられる (Uchiyama et al., 2013)。日本の職場のメンタルヘルス対策のひとつとして、男女ともにストレス低減が見込めるよう、現在の職場環境改善プログラムの手法や内容を見直し、改善していく必要があると考えられる。

 

 

『産業保健スタッフ等からの意見聴取』での工夫

・高ストレス者を高リスク群、中リスク群、低リスク群に分けて、高リスク群に対しては保健師による個別面談、中リスク群にはセルフケアに関する情報提供など、強度を変えた対策を実施した。

回答率をあげるための工夫:昼食休憩後、座席についたころを見計らってリマインダのメールを送る。部署ごとに受検率を報告してお互いに競わせた。1ヶ月の期間を設けて、一旦セーブして途中から再開できるシステムで実施した。

l 面接希望者を増やすため、高ストレスの者には通常の相談対応を案内。面談の中で必要に応じて法定面談に切り替えることにした。

「ストレスチェック」という単語が、あらさがしのようなネガティブな印象を与えていた。

そこで、「助け合う職場」や「いきいき診断」といったように、ポジティブなワードを使用したり、その職場のよいところに注目したりすることにした。

 

『労働者におけるセルフケアとしての身体活動:メンタルヘルスに対する一予防としての介入効果』

メンタルヘルスの改善を目的として身体活動介入を行っている研究のうち、健康な労働者を対象とした一次予防を目的としており、かつ無作為化比較試験 (Randomized Controlled Trial,RCT) を研究デザインとして採用している最近10 年間の研究から、身体活動のセルフケアとしての効果を明らかとすることを目的として、系統的レビューを実施した。

 

ヨガを採用した研究でアウトカムの有意な改善が比較的多く認められた。したがって、ヨガのメンタルヘルス改善効果は、他の身体活動に比べて効果が高い可能性がある。ヨガは、姿勢、および呼吸への介入と瞑想を含み、第三世代認知行動療法として知られるマインドフルネスの一部として取り入れられることもあることから、今後のさらなるエビデンスの蓄積が望まれる。

 

p136~ 好事例集

 

いきいき職場づくりのためのアクションチェックリスト(職場改善ヒント集)でとりあげる4つの職場環境改善領域

《改善領域1》

仕事のすすめ方

例:忙しい時期に備え、また休日・休暇が十分取れるように前もって業務を準備、調整します

 

《改善領域2》

作業場環境

例:換気設備、照明、低騒音設備で、快適な作業環境にします

《改善領域3》

職場の人間関係・相互支援

例:必要な時に上司に相談したり支援を求めた

りしやすいコミュニケーション環境を整備します

例:育児・介護休暇

《改善領域4》

安心できる職場のしくみ

例:職場の将来計画や見通しについて、いつも周知されているようにします

いきいき職場づくり成功のための2つのコツ

  • 職場で実践している幅広い改善に注目する
  • 同じような職場での良好事例から学ぶ
  • 人の集め方、場の持ち方はその職場に合ったやり方でアイデアをアクションに結びつける

すでに職場にある良い事例から幅広く学ぶ

  • 簡単に、手軽にできるところから始める
  • 対策選択式のツールの活用
  • ちいさなことからコツコツと

一段ずつの職場環境改善に取り組む

参加型で楽しみながらやると、アイデアが出やすくい。

管理職はオブザーバー的存在で、暖かく見守って

 

働きやすい職場をつくることは、そこで働く職員のストレスを軽減することにつながります。

  • “職場の環境改善”というと、そんなおおがかりなことはできない、忙しいのにやる時間がない、めんどう、やってもムダ、など、持たれる思いは、様々だと思います。
  • でも、仕事をしていて、物理的なことや、人間関係などで「あれ?」「これは!」と思うこと、不便だな、困ったな、大変だなと感じていることがあると思います。
  • その“気づき”を心にしまわずに出す。ここからが職場環境改善のスタートです。
  • 職員が働きやすく、居心地がよいと思えるような職場を目指して、やってみましょう。

 

職場改善のすすめ方の6つのヒント

  1. トップダウンによる一方向な対策ではなく、参加型の対策を行う
  2. スモールステップ方式により、実施可能な活動から積み上げてゆく対策を行う
  3. 職場のもつ「強み」に注目し、強化する対策を行う
  4. 問題追求型でなく、目標志向型の対策を行う
  5. 短期的な視点だけでなく、長期的な視点を持つ
  6. 個人的アプローチを併用する。

 

成功するグループワークのための7つのヒント

  • まずは良い点から討議し、それから改善点の討議
  • 技術的な内容より、取り組むことができるかどうか考える(場の持ち方はその職場に合った方法で-定例会や課ごとのミーティング)
  • 一般的な事項よりも具体的なアイデアを強調する
  • 多面的な技術視点から低コスト改善に焦点
  • 一方的な講義より、参加者の経験を交流する
  • 参加者の抱える課題や弱みから始めるよりも、参加者自身の成果や強みから始める
  • 参加者への助言者や討議の進行役になる(管理職はオブザーバー的な存在で温かく見守って)

 

『科学的根拠によるストレスチェック質問票と判定基準の設定』

集団寄与危険割合

男性 24% 女性21%

『ストレスチェック制度における医師による面接指導およびフォローアップのあり方に関する研究』にて

「ストレスチェック制度における医師面接のガイドライン」の骨子

P219~
実際の医師面接では、仕事と家庭の両立、キャリアの問題、プライベートの問題などが明らかになることも少なくない。

医師面接の時期がいつ頃になるかを、ストレスチェック制度の実施計画の中で整理する。ストレスチェックと医師面接が、大幅な人事異動の時期をはさむのは適当でない。