「安全衛生コンサルタント」誌39巻132号|メンタル産業医命名者の記事掲載
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「安全衛生コンサルタント」誌39巻132号|メンタル産業医命名者の記事掲載

2019年11月13日(水)10:34 PM

健康経営認証取得支援サービスで知られる合同会社パラゴン(東京都港区)代表による『「第30回日本医学総会2019中部」に労働衛生コンサルタントとして参加して』が一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会機関誌「安全衛生コンサルタント」第39巻第132号に掲載されました。

第30回日本医学会総会 2019中部において、国家資格である労働衛生コンサルタントとして参加したシンポジウムでの議論の中身を紹介しております。。




出典:合同会社パラゴン.医師の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス|@第30回日本医学会総会2019中部、メンタル産業医命名者:シンポジスト報告

 

 

当方が個人事業主としてA税務署に個人開業届出に行ったときのことです。職業に「労働衛生コンサルタント」と書きました。担当の税務署署員は、「一体何?」と尋ねてきました。私の説明が悪かったのでしょう。「医療コンサルタント」に変更するよう求めてきました。目をつけられるのは困ると思った小市民の私、そのように書き換えました。その後も当誌にて、労働安全/衛生コンサルタントの認知やその効用を高める必要性がある議論をよく目にするように感じています。中には大阪支部のように、日本医師会認定産業医研修会の場を提供したり、講師を担ったりするようことで、産業保健に対しても貢献したいという意欲的な支部があることに感銘を受けました。

そんな中、その日本医師会が提供する日医ニュースにて、「労働衛生コンサルタントの櫻澤~」と、労働衛生コンサルタントが肩書きとして通用した経験をしました。それは2019年4月27日より29日まで開催された第30回日本医学会総会2019中部(以下、医学会総会)の模様を報じた日医ニュース令和元年(2019年)6月5日号1)においてです。

その経緯を紹介させてもらいます。

 

 

医学会総会とは

「医学と医療の進化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマとして、名古屋国際会議場他で開催されました。日本医師会と協力のもと、132の分科会を擁するこの医学会総会は、4年に一度の頻度で開催される我が国最大の学会であり、今回も約3万人が参加1)しました。令和元年における厚生年金保険料率は18.3%、全国健康保険協会による東京都での健康保険料率は9.9%と、合計すると28.2%と社会保険料率は約3割を占めるに至っています。労使に対して、月々、納税前の額の3割もの「投資」がないと、社会保障としての医療・介護制度は、国家財政的には維持ができないという、つまりは危機に瀕しているようですが、ミクロでいうならば、当方も一経営者の端くれ。企業経営においても深刻なgoing concernとなっています。本庶佑先生が絡んだヒト型PD-1抗体の当初の薬価は1gあたり730万円と、国民皆保険制度の持続性に懸念を与えるかのような高額な医薬品、医療機器も増えています。それら技術革新の波が医学・医療にパラダイムシフトを起こしている実際に対して、3名のノーベル賞受賞者を含む、基礎から臨床にわたる当代随一の第一人者から、最新知見を学ぶことができる機会でした。

 

労働衛生コンサルタントとしての参加背景

医師の診療科や地域性による偏在、対する長時間労働にほる疲弊が社会的問題になっていることに対して三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学分野 そうけ島茂教授と津田塾大学総合政策学部 総合政策学科 森田朗教授が座長を務めるシンポジウム「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」のシンポジストとして意見がほしいということでしたので登壇する機会を拝命しました。

いくら財前五郎教授でも、手術中に執刀を放棄することはしません。でも当方、税理士から税務を投げ出されたことがあります。なんと、応召義務や転医紹介義務が課せられているのは医師だけなのだとその責務の重たさを実感しました。加えての職業倫理観。対して「モンスターペイシェント」というように、権利にあぐらをかく患者問題があるように、過大な社会的使命が突き詰められると、医師は長時間労働が当たり前になるだけではなく、生物学的な破たんである過労死や過労自死にさえなりかねません。その課題に対する解決策を成書2にまとめ、加えて人口問題を論じる著作もある3こと、森田朗教授は国立社会保障・人口問題研究所所長の要職にあったことから呼ばたのでしょうか。

「学術講演要旨」のプロフィールには「日本労働安全衛生コンサルタント会神奈川支部幹事」と。要旨には「現在、労働衛生コンサルタントとして、ストレスチェック制度を活用した労働負担軽減とその事業所の魅力向上支援に従事しています。」と記載しました。

 

シンポジウム「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」の模様

 

2019年3月になり、厚生労働省から「医師の働き方改革に関する検討会」報告書(以下、報告書)が出されました。そこに医師の時間外労働上限規制の暫定特例時間(以下、特例)が年1860時間とされました。その背景や懸念される健康影響に関して議論が進みました。

 

  • 三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学分野笽島茂教授より

 

(1)ご自身らによる疫学研究4にて明らかにされた長時間労働による心筋梗塞死という健康影響に関しては、世界的にリスク因子だとの共通理解が得られてきた。

(2)長時間労働による健康影響としては、脳血管疾患、不整脈や抑うつ性障がいに関しても、科学的根拠あるリスク因子であることがわかってきている。

(3)地域の中核的医療機関で、地域医療に邁進する医師への年間の時間外労働を1,860時間まで緩和することは、上記(1)(2)よりその医師の健康に悪影響を及ぼしうることが懸念される。

(4)地域医療を守るというその医師の社会的使命を果たすには、他職種との連携を含めた、別種の公共政策的解決が必要である。

このように長時間労働には科学的根拠がある心身双方への悪影響が懸念されるため、地域医療確保のために設けることとなった暫定特例の医師の健康影響に懸念を表明されました。

  • 羽生田俊参議院議員より

 

自由民主党厚生労働部会「医師の働き方改革プロジェクトチーム(PT)」の座長を務めている立場から、「医師の健康の確保」と「地域医療の適切な確保」の2つの視点を柱として議論を行ってきた経緯と、報告書に盛り込まれた「年1860時間」という特例に対しての見解と対策を紹介されました。

 

(1)医療機関も、101人以上の雇用を抱える場合には2019年4月から、100人以下の場合には2020年4月から、「働き方改革関連法」の適応が施行されている(※その他諸条件はありますが、大きくは上記2点において施行)。

(2)(1)には医師への適応は2024年になるということ例外特例がある。

(3)「医師の働き方改革」については、「医師の健康への配慮」と「地域医療の継続性」との両立が不可避。

(4)(3)の履行には、時間外勤務となる理由について詳細に分析すると共に適切な対応が必要。

(5)医療安全と地域医療を守るための適切な対応としては、医師の偏在の解消、国の意識改革、ICTの活用に加え、「タスクシフト」の実施が避けられない。「タスクシフト」とは医師でないとできないこと以外を医師には担わせないという、換言すると医師ではなくても担当できる業務は別の職に分担してもらうという職務分担。

(6)PTとして「初期救急、休日夜間診療体制の再構築」、「かかりつけ医と病診連携の普及促進」、「予防・健康増進活動の推進」等、各医師会に求めた。

(7)勤務医の長時間労働を是正するためには「1人の医師が行っている医療を2人で分ければ、それだけ人件費もかかる。これに対してはどうしても財源が必要になる」と財源の確保が必要だと強調の上、PTとしても政府に申し入れた経緯

以上を紹介されました。

 

  • 東京大学医科学研究所国際先端医療社会連携研究部門 湯地晃一郎特任准教授より

 

  • 地域の中核的医療機関に従事する医師の時間外労働時間が1,860時間を上限とする特例が決められた背景には、2016年実施の厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(以下「医師10万人調査」)が根拠となっている。
  • 1860時間は、「医師10万人調査」にて、労働時間が長い方から1割に相当する労働時間だった

(3)「医師10万人調査」では、男性の28%、女性の17%が週60時間以上の労働に従事していた。

(4)同調査では、待機時間の平均が男性では16時間、女性では12時間だった。

(5)時間外労働の平均が長い診療科は、救急、外科、臨床研修医の順だった。

以上より、医師のワークライフバランスを実現するためには、過重労働対策が急務であり、解決策としては、以下の導入を提言されました。

・単独主治医制ではなくチーム主治医制の導入、

・交替で主治医を担当する担当医制の導入する、

・「タスクシフト」の導入、

・労働時間や勤務体制の多様化の推進

 

 

  •  当方より

 

以下の課題がある中、労働負荷軽減と事業所の魅力向上に向けた取り組みを行ってきた労働衛生コンサルタントという実務家の立場から、医療現場での働き方改革を実現する方策を提案しました。

 

以下の2つの課題を紹介しました。

(1)1995年をピークとするわが国の生産年齢人口は、直近の2018年10月1日時点はピーク時よりすでに1,100万人も減少し86.5%まで低下、かつ、今後の想定も減少の一途。

(2)国家レベルでの労働力不足は、企業の生産活動というミクロでみるならば、永続性に影を落とすだけではなく、最前線で支援に従事する産業医にもさまざまな負担が生じるという現実がある。加えて今般の労働安全衛生法改正にて、更なる法的義務という負荷が産業医に課せられることが危惧される。

 

上記課題に対して、「タスクシフト」という役割分担に留まらない、「オープンイノベーション」という1+1が2ではなく4にも5にもなる方策例だと紹介しました。


 イ.特定社会保険労務士との連携

 ストレスチェックで浮彫になる労働問題からのリスクヘッジという「タスクシフト」に留まらず、健康経営優良法人認定まで可能になっている事例として職業性ストレスチェック実施センター(以下、センター)がある。

80項目版ストレスチェックの有用性と集団分析結果の分析と、「アクションプラン」という職場環境改善計画の実行が労働者災害補償保険金からの助成金を使うことで事業者の負担がゼロになる場合もあり、図にあるように「アクションプラン」という職場環境改善計画の実行実施率が68%と第13次労働災害防止計画が掲げた2013年度での到達目標値(60%)を2018年度にてすでにセンタ―では達成済。

 

 

 ロ.キャリアコンサルタントとの連携

熊本の仁誠会のように、個々の適性に基づいた適職への配置支援というキャリアカウンセリングを実施している医療機関はすでに実在しています。少ない人的資源で、多くの生産性を示す医療機関が増加することへの期待感を表明しました。

 

  • 津田塾大学総合政策学部森田朗教授より

 

勤務時間という視点からのみで働き方改革を考えることには限界があると指摘された上で以下を述べられました。

 

  • 櫻澤が取り上げていた人口減問題を我が国は、解決できる状況にない。
  • 医学部の定員が9400人を超す現在、2018年の出生数が94万人ということを鑑みると、昨年生まれた子供の千人に一人は医学部に入学できるということを意味する。将来は医師余りが確実に来ることも考える必要がある。
  • 将来の前に、現在の医師の働き方改革をかなえるためには、

・医師の健康確保、

・医師に課せられた社会的使命(ミッション)、

・医師という労働力や社会的資源の配置、

・医師養成に要する国民負担 といった複雑に絡んだ連立方程式を、国民レベルでの合意形成を踏まえて解きほぐす必要がある。

(4)(3)のためには、医師の働き方を含め時間だけを考えて労働の管理をしていくこと自体が限界に来ていることを認識すべき。対する解決手段は、Business process re-engineeringという、生産性に着目した業務分析を行い、タスクシフトも含めて業務の効率化という観点で考える手段がある。実際、同様に社会的要請面の増大に対し、限られた公的資源という制約に直面している社会的システム例として「公的教育」での活用例がある。地域での指導者に、部活動指導を担ってもらうようになった実際はこの活用例の1つ。

(5)医療においても、質的な悪化が生じないよう、治療効果を目的変数とした、いわば外部監査にて、質的劣化を防止しながらの、少ない医療資源を有効に活用しえる医療システム管理手法の開発と適用、そしてそれらが可能になる制度設計が求められると提言を出されました。

 

 

  •  フロアより

ある地方医師会の理事より、以下の問題提起がありました。

(1)医師の過重労働の問題を解決するには、たとえば外科系に進路を選択する医師の激減ぶりからも、診療科偏在の解消が不可欠。
(2)激務をこなさざるをえない診療科に対しては、医師の就労を誘導するための金銭的なインセンティブが働く仕掛けが必要である。

 

 

引き続き、労働衛生コンサルタントとして、諸姉諸兄の先生方の培われてきた伝統や実績を汚すことがないよう、精進を重ねるため、当誌の熟読を重ねてまいります。

 

 .

 

参考文献

  • 「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマに開催 第30回日本医学会総会 2019中部.日医ニュース 令和元年(2019年)6月5日
  • 櫻澤博文.復職・セルフケアガイドブック.金剛出版,2017
  • 櫻澤博文監修.キャリアコンサルティングに活かせる 働きやすい職場づくりのヒント.金剛出版,2018年3月25日
  • Sokejima S, Kagamimori S. Working hours as a risk factor for acute myocardial infarction in Japan: case-control study. BMJ. 19(317):775-80,1998

 



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