メンタル産業医の命名者で、健康経営に長けたプロフェッショナル産業医知られる合同会社パラゴン(東京都港区)代表が、集団分析を実施した後、円滑な職場内のコミュニケーションや、風通しのよい組織づくりをする方法を紹介します。
1. “伝える”と“伝わる”の違いを理解する研修 ~基礎編~
ア.研修の主眼
・他者との関係性・他者への効果的な対応方法を学ぶ。
・良好なコミュニケーションを行う背景概念にある「伝える」と「伝わる」の違いを学ぶ。
口論している場面を思い浮かべてみましょう。
田中さん:「私は『〇〇』とあなたに言った(伝えた)」
浅葉香さん:「いや、聞いていない」もしくは「言われたような気はするが詳しく覚えていない」
このようなやりとり、今も日本のどこかで繰り広げられていると容易に想像できることでしょう。
自分が相手に音声を「伝える」ことと、相手に言語や内容、意味が「伝わる」ことは全く異なります。この違いを意識できるようになると、他人との諍い(いさかい)は減らせます。
イ.得られる効果
・良好なコミュニケーションが実践できる。
・相手を通じて、相手が自己を投影している鏡のように、自身を振り返ることができる。
ウ.具体的方法
①以下のような、複雑性を持つ文章を、前の席から後ろの席に向けて、順に通知してもらいます。
ポイント:条件や制約は全く伝えずに開始してもらいます。
<例文>
・14時30分までに、東京中央銀行倍返し支店の口座から315,965円をおろす。うち158,000円をセントラル商事の佐藤銀行萱野外支店の当座預金に振り込む。残りを当座資金として会社の金庫に保管。
・全国安全週間は、昭和3年に初めて実施されて以来、「人命尊重」という崇高な基本理念の下、「産業界での自主的な労働災害防止活動を推進し、広く一般の安全意識の高揚と安全活動の定着を図ること」を目的に、一度も中断することなく続けられている。
②予想される結末
- 誰ひとりメモを取ることなく、文字通り“伝言ゲーム”が進む。
- 早さを競っているわけでもないのに、途中で、それら内容を確認する人は皆無。
③ すべての最終列に情報が伝わった後、当初の内容と照合させるだけではなく、以下の確認をしてください。
✔メモを取らなかった理由
✔途中で、内容を確認しなかった理由
2. “伝える”と“伝わる”の違いを理解する研修 ~管理職編~
【方法】
「伝える」と「伝わる」の違いを管理職研修で使う場合には、情報を伝達する際に、「見える化」しながら情報を伝達させる工夫を加えると良いでしょう。
<「見える化」例>
・箇条書きの要約メモを残させる
・スケジュールを時系列に沿って記させる
【得られる効果】
・今まで、なぜ部下が指示通りに動いてくなれかったか、理解できます。
・「1時間後に進捗を報告して欲しい」、「途中の進捗状況はいつ報告してもらえる?」等、事前に5W3H(When,Where,Who,What,Why,How long, How much, How many)に沿って、互いの了承をとっておくことでストレス感が軽減され、気持ちよく仕事ができるようになります。
イソップ物語より
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『ある木こりの話』
ある日の朝、あなたが森の中を歩いていると、大汗を流しながら、一所懸命に錆びついた斧を振り下ろしている木こりを見かけました。
「何をしているのですか?」
「見れば分かるだろう。この木を倒そうとしているのだ」
あなたは夕方にまた同じ場所を通りかかりました。すると、まだ木こりが朝と同じ場所で同じ木を伐り続けています。
「大変ですね。あまり作業が進んでいないようですが、少し休憩して、その後に斧の刃を研いでみたら、いかがですか?」
「なんだと!休憩なんてとれるわけがないじゃないか! 忙しいのだ。仕事の邪魔をしないでくれ」
そういうと、木こりはまた錆びついた斧を振り下ろしたのでした。
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“斧を研ぐ行為をした”(研修を受けた)翌日から研いだ斧で木を切ることができるようになることは、仕事に対する原動力を醸成し、仕事をより効率よく進めることができるようになりえます。教育や研修を受けさせることの利点を説く内容とも通じます。
上司と部下の関係性について、山本五十六の言葉が永遠に通じることから全文を掲載します。
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やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
連合艦隊司令長官 山本五十六
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余談ではありますが、管理職だけが上記のようなことを意識しなければならないわけではありません。上司は上司なりの、部下は部下なりの“哲学”や“自負心”をもって仕事に臨んでもらう必要があります。そして多様性あるグローバル社会においては、家庭教育や学校・地域教育だけでは役目は十分ではありません。企業が担うべき教育の幅は、思いの他広い現実があります。更に悪いことに、この教育という投資をなおざりにしてしまっても事態が好転することはありえず、それどころか、企業の成長力に陰りが生じ、採用力も低下してしまいかねません。