東京都医師会が主催で、葛飾区医師会が協力団体を務める東京都医師会・葛飾区医師会産業医研修会が2024年2月3日に葛飾区医師会館で開催されました。
研修内容は以下でした。
①「労働安全衛生規則等の一部改正について」中央労働災害防止協会 労働衛生調査分析センター所長 川本俊弘先生
②「「メンタル産業医」が解説 予防訴訟時代の過労死等防止対策とは」
③「高速大量旅客輸送を担う鉄道会社の安全衛生管理~初期発展期~」医療法人社団尺徳会理事 指原俊介先生
④「職場の新たな化学物質管理と産業医の役割―化学物質のリスクアセスメントから健康診断・事後措置まで―」労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター 化学物質情報管理部長 山本健也先生
すべて産業医大関係者という布陣でした。
①と④の概略は 厚生労働省が 労働安全衛生法の新たな化学物質規制 として出しています。
2014年6月:SDS交付対象化学物質のRA実施義務化背景解説
2014年6月に労働安全衛生法が改正され、640種類の有危険有害性&安全データーシート(SDS)交付対象化学物質(「通知対象物」)に対してリスクアセスメントの実施が義務付けられました。 その法改正のきっかけは2012年の印刷会社での胆管がん11名発症(うち6人死亡)事故でした。どうして胆管がんに罹患したかというと、「この溶剤は有機溶剤中毒予防規則(有機則)の規制対象には該当しません」という、1,2-ジクロロプロパンを使った洗浄剤を、フロン系洗浄剤の代替として使用していたことでした。有機則の規制対象ではないということを、危険有害性はないものと理解し、そして有機溶剤に違いはないのに、窓もなく、換気装置もなく、更には防毒マスクの装着指示もない中作業に従事させられていた実際があったことが世間に衝撃を与えたわけでした。
飲用可能とされている有機溶剤であるエタノールでさえ、大腸がんや肝臓がん等の発がんリスクが明らかになっています。そもそも有機溶剤は発がん性があるものと捉えるのが、化学物質管理を産業医科大学・産業生態科学研究所・作業病態学研究室にて学んだことのある産業医の間ではin case of danger 思想でした。
もとい
全部視聴した立場から解説を加えると以下となります。
労働安全衛生規則等が改正され、以下の対応が順次求められています。
【総括管理】
2023年4月1日施行済
・ 労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置
・国が 危険で有害だからと、リスクアセスメントの実施が必要と定めた化学物質等(2022年2月24日から808物質。2024年4月1日から903物質へ増加。その後も増加予定)について、事業者はリスクアセスメント(以下 CRA)を実施しなければならなくなりました。
このように事業者は指定された化学物質に対するリスクアセスメント(CRA)と、労働者の曝露の程度を最小限度にする対策(後述)を実施しなければならなくなっています。
・がん原性物質の作業記録作成・保管・労働者への周知義務
CRAのうち、労働者にがん原性物質を製造し、または取り扱う業務を行わせる場合は、その業務の作業歴を記録しなければならなくなっています。
また、その記録を30年間保存しなければなりません。発がんした場合の関連性が容易に検討できるよう用意が必要ということです。
2024年4月1日施行
・「化学物質管理者」選任義務
→事業規模や業種は無関係。CRA実施対象となる化学製品を製造、または取り扱う事業場ごとに 選任義務が課せられます。
・「保護具着用管理責任者」選任義務
→CRAの結果に基づく措置として、労働者に保護具の使用をさせる事業場では、「保護具着用管理責任者」を選任しなければならなくなりました。
【作業環境管理】
2023年4月1日施行済
<安衛則第577条の2第1項>
リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることで
労働者に健康障害を生ずるおそれがない物質として厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(濃度基準値)以下としなければならなくなります。
→CRAの結果、労働者の曝露の程度を最小限度にする対策を実施しなければならなくなっています。
→CRA対象物質取扱い作業等において、CRA結果に基づき、労働者の健康障害防止のため、いわゆる有害因子の流れからみた三管理に沿って、以下の概略でのリスク低減を行うことが定められました。
【作業環境管理】
→発生の抑制(代替、発生条件や形態、工程の改善):使わない
→発散の抑制(隔離→時間的隔離:密閉化/ 空間的隔離:自動化):離す
→拡散の抑止(除去、希釈)(局所排気装置>プッシュプル型>全体換気)
【作業管理】
→曝露制限(作業時間低減、作業条件の変更、作業方法や姿勢等の改善):離れる
→侵入抑制(保護具)
参考:産業医による健康経営㊴|労働安全衛生3管理に基づく有害因子の流れからみたコロナ対策大全
【作業管理】
2024年4月1日施行
<安衛則第594条の2第1項 皮膚等障がい化学物質等への直接接触の防止>
「皮膚等障害化学物質」という、明らかに皮膚/眼に障害を与えたり、吸収/侵入して健康障害を与える化学物質(含有する製剤も含む)を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させるときは、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物または保護メガネ等の適切な保護具を使用させなければなりません。
【健康管理】
2023年4月1日施行済
<安衛則第97条の2第1項 がん等の遅発性疾病の把握強化>
化学物質(含:含有する製剤)を取り扱う作業等を行う事業場において、1年以内に2人以上の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、遅滞なくその原因が業務起因性か否か、遅滞なく医師の意見を聴く必要があるようになりました。
2024年4月1日施行
<安衛則第577条の2 リスクアセスメント対象物健診>
以下の「第4項健診」と「第3項健診」が施行されます。
・「第4項健診」:安衛則第577条の2第4項
リスクアセスメント対象化学物質を取り扱っている作業場で、「濃度基準値」を超えたおそれがある作業の従事者に対して。
参考:厚生労働省.労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました
・「第3項健診」:安衛則第577条の2第3項
リスクアセスメント対象化学物質を取り扱っている作業場で、関係する労働者の意見を踏まえ、かつその化学物質による有害性が許容できないと医師または歯科医師が必要と認めた項目について。
【衛生教育】
2024年4月1日施行
<安衛則第35条第1項 雇入れ時教育の省略規定の省略>
→安衛法第60条の規定で、これまで省略されていた食用品製造業、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業においても、新任職長等への安全衛生教育を行うことになりました。
③では、医学医療は システムとして自律的に発展し、事実に基づき科学的妥当性を考えながら、その正しさをサービスとして形成する中、経営運営側との安全衛生という共通言語化として、糖尿病学会が示した治療管理水準を導入することで、リスクコミュニケーションを図ってきた内容が紹介されました。
実際、日本糖尿病学会では、
血糖正常化を目指す際の目標値を「ヘモグロビンA1C(HbA1c) 6.0%未満」、
合併症予防のための目標値を「HbA1c 7.0%未満」、
低血糖そのほかの理由で治療の強化が難しい場合は「HbA1c 8.0%未満」と示しています。
その理由として
・HbA1c 8%以上は管理状況がpoorという、管理状況が不良と区分されるレベルです。そのような危険水準を示す運転手に対して、同未満になるまでは配置転換という、つまりは運転させずに治療厳守対象と区分されたそうです。
・次にHbA1c が7%以上8%未満の段階は管理状況が「不十分」と区分されます。その段階の方々には産業保健師による保健指導介入対象としての厳格、厳重、厳正な管理を行う対象としていたそうでした。
・HbA1c が6%以上7%未満の方々に関しては自律的自助を期待し、半年後、再判定という管理を行ったそうでした。
それが多施設 多職種、広範囲に事業所が分散する鉄道会社においても、統一的に健康管理を推進する契機となり、それが今日の「アニュアルレポート2023」中において「健康経営」という文字が表現される流れに繋がってきたという説明が印象的でした。
メンタル産業医の命名者で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)代表も、川本俊弘先生のご推挙にて葛飾区医師会理事 川上訓先生のご用命にて②を担当させてもらいました。
ご用命ありがとうございます。
講義の後、熱心に質問も賜れました。
南葛というとキャプテン翼 ゆかりの地。キャプテン翼にあこがれる方々は世界中にいらっしゃるとのこと。
昭和風情が残る立石駅南口のカフェを撮影されている海外からの旅行客もみられました。