健康経営⑬|「産業保健と看護」誌にメンタル産業医命名者による健康経営 記事複数掲載

産業保健と看護」2019年4号メディカ出版)が「人事労務×産業看護職のコラボでもう一歩ふみ出す! 健康経営 社員を巻き込むNEXTステップ」という特集を組んだ際、健康経営に長けたメンタル産業医の命名者である合同会社パラゴン(東京都港区)創設者による複数記事が掲載されています。

概論 人事労務と産業看護職で進める健康経営」と

「スキルアップ編 健康経営をさらに進化発展させるために」の2題です。

出典:産業保健と看護2019年4号

 

1.はじめに  バックミラーを見ながら 車の運転をし続けないために                                            

 

「働き方改革関連法」が施行開始となったのは2019年4月1日からでした。

2020年度から「産業医および産業保健機能の強化」も開始あれています。
それを受けるように現在、厚生労働省にて「産業保健活動の多職種連携・チーム体制等に関する検討委員会」がその具体的な内容の議論をすすめています。
しかしその内容は医療・保健・健康スタッフ間の連携に過ぎず、人材採用・教育訓練という「キャリア」開発を担う人事部門との連携までは含まれていないのはないでしょうか。

厚生労働省は2016年に「職業能力開発促進法」を改正し、キャリアコンサルタントの法制化を行うと共に、
翌2017年に雇用環境・均等局、こども家庭局、人材開発統括官を新設し、横断的な対応を執るよう組織改正を行った中にも関わらず。それでは産業医とそれ以外の労働安全衛生、医療・保健専門職との協業を目指させるだけあり、そのレベルは、読者が勤務する企業では、綾小路きみまろ風にいうと、「あれから30年・・・」すでに昭和時代に具現化されていたことでしょう。

読者が次に懸念するのは、自分たち専門職集団が、いわば「キャラ立ち」が過ぎるようになり、治外法権的に近寄りがたい雰囲気だけが一人歩きすることと考えます。平成の30年間、残存され続けてきた昭和時代の製造業や建設業では通用していた上意下達式の中央集権的な「サーバー設置型」産業医中心システムでの対応の追認ではないでしょう。高品質の製品を大量生産する時代は、確かに年に一度の定期健診結果をもとに、産業医に意見を述べてもらい、その結果を踏まえておけば済んだ時代もありました。しかし人口動態からみるとわが国の製造業従事者は最盛期の7割へ、生産年齢人口も最盛期の9割を切る中です。多種多彩な働き方、多国籍で編成された国境を越えた数日から数か月単位で構成員がプロジェクト単位で刷新される業務に対応することは不可能です。過去に作成された法律の順守的な産業保健活動に終始することは、バックミラーを見ながら車両を運転するようなもの。ここで教訓とすべきは旧労働省が1988年に「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を通じて提唱した「トータル・ヘルス・プロモーション(THP)」という概念の現在の扱いになります。そもそもこの「THP」は、労働者に対する心身両面からの健康づくりという、労働者への健康投資を通じて、その「労働力」の再生産性を高めることも事業者の担う概念だと事業者に認識する崇高な概念です。そこでは「焼畑式農業」よろしく労働者のもつ「労働力」を使い捨てにする「焼畑式経営」ではなく、灌漑や追肥する「循環型農業」よろしく労働者の生産性向上を通じてその企業の人件費を下げ、収益性を高め、更にはいきいいきと働く職場環境形成の積分にて、その企業全体の活力向上をも目指させる「循環型経営」を志向させていたわけです。しかしながらこの「THP」という字句を目にすることは、当誌でもまれではないでしょうか。

 

2.  THPの失敗に学ぶ                                        

「THP」の現在を招いた原因は、労働者の持つ「労働力」という概念が、「人間ドック」という単語が物語るように、労働者の人体のもつ健康度というハード面への医学的評価と、「キャリア」という職業能力というソフト面とで区分され、かつそれぞれが別々に管理されてきたことにあると著者は考えます。前者に関しては日常の健康管理を担っている医療保健専門職に定期点検させ、そして、安全衛生スタッフによって、その健康度というハード面に毀損が生じないよう場の管理をさせています。最近始まったストレスチェックにおいても、厚生労働省は57項目版使用が望ましいと「ストレスチェック指針1)」にて推奨したことからも理解できるでしょう。その労働者の意欲やキャリア指向性、そして職業能力開発までは考える必要性はないと近年も誘導されているわけです。他方 企業は、その理念を具現化させるために、人材教育や訓練を通じて、その企業の「労働力」のソフト面の能力を高めてきています。「キャリア」という職業能力開発を担う人事教育・職能開発部門においても、「THP」や健康度を考えることは筆者が監修を務めた以下、クリックすると刊行下さった金剛出版社様にハイパーリンクする書籍が2018年に発刊されるまでありませんでした。

3.「健康経営」・・・・健康面の運営管理ではなく                                        

「健康経営」をブームに終わらせないことを特集として組んだ専門誌3)を読んでみました。そこで紹介されている4企業例からのまとめが抜粋されており、それを記載すると以下でした。

 

  • 健康経営銘柄への選定を介して「健康面からのアプローチは困難であったことが、経営方針により一気に解決に向かった」「安全分野の方針・体制・施策が確立していらうため、健康分野の活動を安全分野の活動と融合して、活動が上手く進んだ」
  • 「健康宣言の策定プロセスに専門職がかかわったことで、組織も個人も自律的に健康管理を行う風土が醸成されるきっかけができた」
  • 「産業保健専門職だけではなく、他の部門からも健康の定義づけや健康経営に参画すべき」
  • 「ヘルスリテラシーの高い社員をふやすことを目標として、自律的な健康づくりのPDCAサイクルを回してきた」

 

いかがでしょうか。

①は、健康管理関連指標が経営指標の中に、健康経営銘柄の選定をされるまでなされていなかったことがわかります。経営の中に、安全衛生や健康が事業経営計画の一環として位置づけられるまで、苦悩した様が伝わってきます。前年の2016年の刊行された解説書4)において、生産性の評価指標に、アブセンティ-イズムやプレゼンティーイズムを加えると良いとありました。確かに新卒採用者数、離職率、人材教育を通じた人事考課点の増加率といった生産性の評価指標に、健康度指標が加えられることは、それまで安全衛生産業保健専門職によって管理されてきた健康面の運営管理をが、企業内での福利厚生的位置づけから、より高位な人的資源管理という次元に位置づけることになるきっかけなのでしょう。しかしすでに2019年。組織としての一体感や帰属意識の上昇、目標意識の醸成と能率上昇による生産性増加や残業回避が可能な人事評価制度さえ導入できる時代、上記を満足しているだけでは偏差値で示される経済産業省による「健康経営度評価」では、良い位置を確保することは難しいと考えます(対策は、実践編にて後述)。

 

②や④は元々、弁当と健康は労働者持ちといわれていた時代の方がセルフケアはできていたのではないかと愚考したくなりました。項番1で書いたように、昭和時代からの上意下達式・中央集権的な「サーバー設置型」産業医中心システムでは、指示待ち族を生んだだけだったのかもしれません。

 

筆者の意見と同じ提案は③です。労働者の健康面の管理を、医療保健看護の専門職や安全衛生スタッフだけに担わせるのではなく、①の事例のように経営指標を通じて経営陣も管理すべきでしょう。かつこれら安全衛生産業保健専門職も、単に健康度というハード面だけの管理や、作業環境管理・作業管理といった場の管理に専念するだけではなく、労働力のソフト面の管理との融合が必要だという意見です。具体的事例でいうと5G時代の到来を見据え、トヨタ自動車ソフトバンクと組んだように、ハードとソフトの融合です。高品質の製品を大量生産する昭和時代には、年に一度の定期健診結果を踏まえておけばよかったことでしょう。しかし多種多彩な働き方、多国籍で編成された国境を越えた数日から数か月単位で構成員がプロジェクト単位で刷新される業務に対応することは不可能です。同様に産業医といった医師の判断を待つ、過去に作成された法律の順守的な産業保健活動に終始することは、バックミラーを見ながら車両を運転するようなものではないでしょうか。安全衛生産業保健専門職と、人材教育部門との連携に向け、「キャリア」というソフト面からの評価も踏まえられる相互扶助・相互協働型の「クラウド式」産業保健システムが必要です。そのために共通語化すべき「キャリア」という概念と具体的な行動は、「実践編」で紹介します。

 

 

参考文献

1)厚生労働省 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(ストレスチェック指針)」 2015年4月15日

2)櫻澤博文監修.キャリアコンサルティングに活かせる 働きやすい職場づくりのヒント、金剛出版 2018年

3)特集 専門職から見た健康経営 ~健康経営をブームで終わらせない為に~.健康開発、21巻3号 2017年

4)森晃爾.企業・健保担当者必携 成果の上がる健康経営の進め方、労働調査会、2016年