メンタル産業医による社会保険に関する記事掲載|「健康開発」誌第24巻1号にて
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メンタル産業医による社会保険に関する記事掲載|「健康開発」誌第24巻1号にて

2019年10月04日(金)1:08 PM

健康経営認証取得支援サービスお提供している「メンタル産業医」命名者こと合同会社会社パラゴン(東京都港区)創業者執筆の「第30回日本医学会総会2019中部 参加報告」が「健康開発」第24巻1号(健康開発科学研究会)に掲載されました。

 

出典:健康開発 第24巻1号

令和元年における厚生年金保険料率は18.3%、全国健康保健協会による東京都での健康保険料率は2.9%と合計すると28.2%もの健康投資が労使合算にて行われている今日、果たして医療保健福祉職は、国民からの負託に応えられているのかの実際を第30回日本医学会総会 2019中部での発表内容から検討した内容です。


現代版年貢計算 早わかり

ここで「年貢」高 を計算してみましょう。

社会保険料控除という名の納税行為

労使双方負担でのこの28.2%の使用者側負担である14.2%以上を加えると、労働者の当初の年収の「期待収入値」は114.2%となります。
その114.2%から28.2を引くと、86%が残ります。

所得税という名の納税行為

それから各種控除を引いた後の所得に対する所得税は、地方税を含めると15~55%です。

負担感を計算するための仮定なので、上記 残存の86%から最大、とられてどれだけかを求めると、

86%から55~15%納税することになるとします。すると

86×(1-0.55~0.15)
=86×(0.45~0.85)
=38.7~73.1・・・・①

となります。

この段階で残りは 4割未満~7割となります。



消費税という名の二重課税に伴う納税行為

更に消費税を通じて、残った可処分所得から更に1割、もっていかれます。

消費税という二重課税後の残りは①に0.9をかけたらよいことになります。

34.89~65.79となります。

期待収入値である114.2とこれらを比較すると、「年貢」で召し上げられた残りの割合が算出できます

(逆数が年貢の割合です)。

 

すると 実質税負担後の手残りは 30.5~57.6 だけ となります。

つまり、期待収入値の3割から6割弱しか手残りはなくなってしまうということがわかりました。

 

解釈

「年貢」は4割以上7割程度ということでした。江戸時代の五公五民よりましになった人もいるが、他方、ひどくなった方もいる。中には七公“惨”民という、江戸時代より悪政を強いられている悲惨な方もいるということがわかりました。

 

第30回日本医学会総会2019中部が、2019年4月27日より29日まで、「医学と医療の進化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマとして、名古屋国際会議場他で開催されました。

なんとまあ 132の分科会を擁するこの医学会総会は、4年に一度の頻度で開催される我が国最大の学会であり、今回も約3万人が参加1)していました。
ゲノム編集に関しては当社代表の執筆2が発行されたのが2011年。それから8年間の時代の急激な変化例としては、たとえば人工知能(AI)を活用したビッグデータ処理があります。

令和元年における厚生年金保険料率は18.3%、全国健康保険協会による東京都での健康保険料率は9.9%と、合計すると28.2%と社会保険料率は約3割を占めるに至っています。

労使に対して、月々、納税前の額の3割もの「投資」がないと、社会保障としての医療・介護制度は、国家財政的には維持ができないという、つまりは危機に瀕しているようですが、ミクロでいうならば、当方も一経営者の端くれ、企業経営においても深刻なgoing concernとなっています。

本庶佑医師が絡んだヒト型PD-1抗体の当初の薬価は2019年当時1gあたり730万円と、国民皆保険制度の持続性に懸念を与えるかのような高額な医薬品、医療機器も増えています。

このような「株式会社日本」に対する公衆衛生医である産業医の一人として、当誌にて超高齢・少子化社会対策について合同会社パラゴン代表は言及した3立場から、それら技術革新の波が医学・医療にパラダイムシフトを起こしている実際も学ぶ機会があるとのことで参加しました。

今回、これらに対して、3名のノーベル賞受賞者を含む、基礎から臨床にわたる当代随一の第一人者から、最新知見を学ぶことができました。

と同時に、医師の診療科や地域性による偏在、対する長時間労働にほる疲弊が社会的問題になっていることに対して意見がほしいということでしたので、
三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学分野 そうけ島茂教授と
津田塾大学総合政策学部 総合政策学科 森田朗教授が座長を務めるシンポジウム「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」のシンポジストとして登壇する機会を拝命しましたので、これらの報告を記します。

1 最も変革の熱量をもらった講演

池野文昭先生@MedVenture Parters(株)/スタンフォード大学循環器科による「日本から革新的な医療機器を創出するには?~シリコンバレーから学ぶ~」より

 

(1)池野先生の背景

医師9年目にシリコンバレーに米国医師免許取得することなく渡米後、19年間、サバイバルされてきたご経験を踏まえてのセミナーを、シンポジストとして参加されていた国際医療福祉大学 医学部教授&国際医療協力部長の和田耕治教授からのご推薦があり、拝聴しました。

(2)内容

 日本版Biodesign(日本語では「医療機器開発」や設計)の設立と、日本にもシリコンバレー型の医療機器エコシステム確立に対して、文字通り精力的に邁進されている実際を元にした話には圧倒されるばかりでした。

 

 学んだBiodesign Process(革新的な創案の発案とその事業化)を紹介します。

 

創案創出過程としては、以下の3段階を経ます。

 

  • Identify :  Bed to bench and back to bed・・・まず、労働安全の標語である「現在・現実・現場」よろしく、現場に課題はあるとのことでした。たとえば目の前の疾病や怪我で苦悩する患者や市民に着眼し、それらの中の課題を抽出し、needs driven・・・・デザイン(日本語でのデザインとは違い、設計)思考を志向の上、それら課題のうち、最も価値を生むNeedを見つけ出す作業が一番先になります。いわゆる「仮説思考」4)

とも通じるものと理解しました。

 

  • Invent : Open Innovation・・・・いわばメタ認知が働く、変革する才のある人を、その人に、己の技術に溺れさせることなく、チャレンジさせ続ける環境を管理者は用意し、その結果として最適解を見つけてもらう段階です。変革する才があると見込まれる人は、「若者、よそ者、バカ者」といわれるような、多様性ある、チャレンジ精神旺盛な、主観に囚われず、柔軟性ある思考と志向性を持つ人のことだそうです。ただ凡人と違い、10年後や100歩先まで見据えられるので、“変人”と揶揄されたり、許容されなかったりする現実が、令和時代になった今、いまだ昭和時代の経験で対処する方々の多い組織では多く見受けられるとのことでした。

 

池野先生の持論として、沢山の失敗という名の学ぶ機会を経ない限り、そもそも成功はできないそうです。情報処理機器や携帯電話を挙げるまでもなく、本来、我が国が先導してきた最先端企業やその製品が、今や淘汰されている理由として、以下を教訓として示されました。多くの日本人は、完璧な計画なんて作れないのに、完璧な計画を立てようとしてきた。その間に無駄に時間が過ぎ去り、アメリカから「アイフォン」等の革新的商品が出てきてしまい、市場を席巻されてしまった。つまり後塵を拝する他なくなったのは、計画を立てる文化や風土を改めなければならない。 確かに多くの技術、才能、企業、産業は淘汰されてしまう側にまわる他なく、のみならず多くの血税が消えたことが、我が国の名目GDPは20年以上も5兆ドル前後と低迷している3理由だと悟りました。

 

では、令和時代はどうしたら良いのかを池野先生は示してくださいました。「仮に失敗したとしても、その失敗が早く失敗だったことがわかれば、次に別のチャレンジが出来る。 その繰り返しをひたすら行うことだ」と。「確かに失敗の数は増えてしまうものの、失敗の単価は下げられることになるから」が理由でした。これが「GAFA」が台頭してきた背景とのことと、それらや類似する企業を擁するカリフォルニア州の人口一人当たりの生産性は、日本の二倍にも高まっている実際があること示されました。

 

  • Implement :適合、活用段階。

 

上記を経ると、確かに「下手な鉄砲、数撃てば当たる」のでしょう。池野先生も多数の新規技術や製品を世に還元してこられたそうです。その立場から、以下のメッセージをくださいました。

「シリコンバレーでは、功なり名を遂げた壮年・老年層はメンターシップする側にまわっている。すなわち若い研究開発者をベテラン組がメンターとして支援・応援することを担っている。日本では「少年よ、大志を抱け」でなく、壮年こそ年金も退職金も十分にもらっている立場。子育てする必要性もないように、失うものはない立場なのだから、大志を抱いて再挑戦するなり、若い研究開発者を応援するといった、新たなキャリア開発を行うことが、日の沈む国となった日本を立て直す鍵だ。」

 

NHKテレビ番組のマスコット、チコちゃんに500回、叱られるのではないかと反省するほど、産業医として怠惰かつ保身に走っていた自身を反省しました。

このような機会を設けてもらった和田教授に感謝申します。

 

 

2.健康長寿(Productive Aging)に関する情報

 

  • ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門 今井眞一郎教授より

「ヒトの老化は制御できるか―抗老化研究の最前線」というシンポジウムにて「Productive Agingの実現を目指して:哺乳類の老化・寿命制御と抗老化方法論」という題で、ご自身や研究グループにて解明された老化・寿命の制御機構と抗老化方法の紹介がありました。

まとめると以下になります。

 

哺乳類の老化・寿命制御システムとしてNAD-Worldが解明されてきている。

それは

1.視床下部が高次の老化のコントロールセンター

2.老化とeNAMPT量は反比例関係にある。

  eNAMPTとは、脂肪組織から分泌されるNAD+合成の主要酵素の細胞外での形です。

NAMPTの主要反応産物はNMN(nicotinamide mononucleotide)と呼ばれ、マウスだと紅斑かつ顕著な抗老化作用を示すそうです。つまり、脂肪を減らすことは、抗加齢作用が期待できるのかもしれないとのことでした。

3.SIRT1が老化・寿命制御において重要な役割を果たしている。

以上らの所見から鑑みると、抗老化作用を期待するためには以下への取り組みが有用になる可能性があるとのことでした。

 1.視床下部の安定化:規則正しい生活を送る

 2.起床後の血糖値上昇:朝食摂取を欠かさない

 3.脂肪の分解とアディポネクチン増加:運動の実践.

.

なるほど、THPで示されていたことの生理学・遺伝子学的正しさが、解明されつつあるということだと理解しました。

 

3.「認知症と正しく向き合うために-予防と治療の進歩」より

 

東京大学大学院医学研究科 神経病理学分野 岩坪威教授と国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 鳥羽研二医師が座長であった市民公開講座としても位置付けられた上記シンポジウムから学んだことを列挙します。

 

① 認知症と診断されていても、画像診断上は2割が偽陽性、認知症との診断がなされてはいなくても、剖検上は4割が偽陰性というように、確定診断を下すことが難しい病態が認知症。

② 65才以上でみると、BMIが25を超す人の方が、認知症になるリスクは4割近く減っていた。

③「認知症カフェ」が、今や全国で6千か所以上運営されていることを筆頭に、要介護者を地域で支える仕組みは整備されてきている。困ったことがあったら、何でも相談を寄せると良い。

 認知症の支援者が、認知症の支援者のために、認知症の人におこる様々な症状に対する対応法を持ちより、持ち寄られた対応法を、統計的手法により、その妥当性検証を行うことで、「うまくいく」確率として推薦できる支援の優先度を紹介するサイトです。ボトムアップよろしく、広く市中から、その現場レベルでの課題に対する介護支援解決策を集めたうえで、それら情報に対して医学統計の専門家が、その妥当性や信頼性という品質評価をしたうえで、他の利用者に対して活用しやすいようにネットを介して紹介したベストプラクチィスの水平展開プロジェクトです。このように、知に知を足していく作業が行われていることに、医師の良心と医学への信頼感を、久しぶりに感じなおすことができました。

 

4.シンポジウム「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」より

 

いくら財前五郎教授でも、手術中に執刀を放棄することはしません。でも当方、税理士から税務を投げ出されたことがあります。なんと、応召義務や転医紹介義務が課せられているのは医師だけなのだとその責務の重たさを実感しました。加えての職業倫理観。対して「モンスターペイシェント」というように、権利にあぐらをかく患者問題があるように、過大な社会的使命が突き詰められると、医師は長時間労働が当たり前になるだけではなく、生物学的な破たんである過労死や過労自死にさえなりかねません。その課題に対する解決策を成書5に記したり、人口問題を論じる著作もある6ことから、シンポジストとして呼ばれました。

2019年3月になり、厚生労働省から「医師の働き方改革に関する検討会」報告書(以下、報告書)が出されました。そこに医師の時間外労働上限規制の暫定特例時間(以下、特例)が年1860時間とされました。その背景や懸念される健康影響に関して議論が進みました。

 

  • 三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学分野笽島茂教授より

 

(1)ご自身らによる疫学研究7にて明らかにされた長時間労働による心筋梗塞死という健康影響に関しては、世界的にリスク因子だとの共通理解が得られてきた。

(2)長時間労働による健康影響としては、脳血管疾患、不整脈や抑うつ性障がいに関しても、科学的根拠あるリスク因子であることがわかってきている。

(3)地域の中核的医療機関で、地域医療に邁進する医師への年間の時間外労働を1,860時間まで緩和することは、上記(1)(2)よりその医師の健康に悪影響を及ぼしうることが懸念される。

(4)地域医療を守るというその医師の社会的使命を果たすには、他職種との連携を含めた、別種の公共政策的解決が必要である。

このように長時間労働には科学的根拠がある心身双方への悪影響が懸念されるため、地域医療確保のために設けることとなった暫定特例の医師の健康影響に懸念を表明されました。

  • 羽生田俊参議院議員より

 

自由民主党厚生労働部会「医師の働き方改革プロジェクトチーム(PT)」の座長を務めている立場から、「医師の健康の確保」と「地域医療の適切な確保」の2つの視点を柱として議論を行ってきた経緯と、報告書に盛り込まれた「年1860時間」という特例に対しての見解と対策を紹介されました。

 

(1)医療機関も、101人以上の雇用を抱える場合には2019年4月から、100人以下の場合には2020年4月から、「働き方改革関連法」の適応が施行されている(※その他諸条件はありますが、大きくは上記2点において施行)。

(2)(1)には医師への適応は2024年になるということ例外特例がある。

(3)「医師の働き方改革」については、「医師の健康への配慮」と「地域医療の継続性」との両立が不可避。

(4)(3)の履行には、時間外勤務となる理由について詳細に分析すると共に適切な対応が必要。

(5)医療安全と地域医療を守るための適切な対応としては、医師の偏在の解消、国の意識改革、ICTの活用に加え、「タスクシフト」の実施が避けられない。「タスクシフト」とは医師でないとできないこと以外を医師には担わせないという、換言すると医師ではなくても担当できる業務は別の職に分担してもらうという職務分担。

(6)PTとして「初期救急、休日夜間診療体制の再構築」、「かかりつけ医と病診連携の普及促進」、「予防・健康増進活動の推進」等、各医師会に求めた。

(7)勤務医の長時間労働を是正するためには「1人の医師が行っている医療を2人で分ければ、それだけ人件費もかかる。これに対してはどうしても財源が必要になる」と財源の確保が必要だと強調の上、PTとしても政府に申し入れた経緯

以上を紹介されました。

 

 

  • 東京大学医科学研究所国際先端医療社会連携研究部門 湯地晃一郎特任准教授より

 

  • 地域の中核的医療機関に従事する医師の時間外労働時間が1,860時間を上限とする特例が決められた背景には、2016年実施の厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(以下「医師10万人調査」)が根拠となっている。
  • 1860時間は、「医師10万人調査」にて、労働時間が長い方から1割に相当する労働時間だった

(3)「医師10万人調査」では、男性の28%、女性の17%が週60時間以上の労働に従事していた。

(4)同調査では、待機時間の平均が男性では16時間、女性では12時間だった。

(5)時間外労働の平均が長い診療科は、救急、外科、臨床研修医の順だった。

以上より、医師のワークライフバランスを実現するためには、過重労働対策が急務であり、解決策としては、以下の導入を提言されました。

・単独主治医制ではなくチーム主治医制の導入、

・交替で主治医を担当する担当医制の導入する、

・「タスクシフト」の導入、

・労働時間や勤務体制の多様化の推進

 

 

  •  当方より

 

以下の課題がある中、労働負荷軽減と事業所の魅力向上に向けた取り組みを行ってきた実務家の立場から、医療現場での働き方改革を実現する方策を提案しました。

 

以下の2つの課題を紹介しました。

(1)1995年をピークとするわが国の生産年齢人口は、直近の2018年10月1日時点はピーク時よりすでに1,100万人も減少し86.5%まで低下、かつ、今後の想定も減少の一途。

(2)国家レベルでの労働力不足は、企業の生産活動というミクロでみるならば、永続性に影を落とすだけではなく、最前線で支援に従事する産業医にもさまざまな負担が生じるという現実がある。加えて今般の労働安全衛生法改正にて、更なる法的義務という負荷が産業医に課せられることが危惧される。

 

上記課題に対して、「タスクシフト」という役割分担に留まらない、「オープンイノベーション」という1+1が2ではなく4にも5にもなる方策例だと紹介しました。


 イ.特定社会保険労務士との連携

 ストレスチェックで浮彫になる労働問題からのリスクヘッジという「タスクシフト」に留まらず、健康経営優良法人認定まで可能になっている事例として職業性ストレスチェック実施センター(以下、センター)がある。

80項目版ストレスチェックの有用性と集団分析結果の分析と、「アクションプラン」という職場環境改善計画の実行が労働者災害補償保険金からの助成金を使うことで事業者の負担がゼロになる場合もあり、図にあるように「アクションプラン」という職場環境改善計画の実行実施率が68%と第13次労働災害防止計画が掲げた2013年度での到達目標値(60%)を2018年度にてすでにセンタ―では達成済。

 

 

 ロ.キャリアコンサルタントとの連携

熊本の仁誠会のように、個々の適性に基づいた適職への配置支援というキャリアカウンセリングを実施している医療機関はすでに実在しています。少ない人的資源で、多くの生産性を示す医療機関が増加することへの期待感を表明しました。

 

 

  • 津田塾大学総合政策学部森田朗教授より

 

国立社会保障・人口問題研究所長を担っていた立場から、勤務時間という視点からのみで働き方改革を考えることには限界があると指摘された上で以下を述べられました。

 

  • 櫻澤が取り上げていた人口減問題を我が国は、解決できる状況にない。
  • 医学部の定員が9400人を超す現在、2018年の出生数が94万人ということを鑑みると、昨年生まれた子供の千人に一人は医学部に入学できるということを意味する。将来は医師余りが確実に来ることも考える必要がある。
  • 将来の前に、現在の医師の働き方改革をかなえるためには、

・医師の健康確保、

・医師に課せられた社会的使命(ミッション)、

・医師という労働力や社会的資源の配置、

・医師養成に要する国民負担 といった複雑に絡んだ連立方程式を、国民レベルでの合意形成を踏まえて解きほぐす必要がある。

(4)(3)のためには、医師の働き方を含め時間だけを考えて労働の管理をしていくこと自体が限界に来ていることを認識すべき。対する解決手段は、Business process re-engineeringという、生産性に着目した業務分析を行い、タスクシフトも含めて業務の効率化という観点で考える手段がある。実際、同様に社会的要請面の増大に対し、限られた公的資源という制約に直面している社会的システム例として「公的教育」での活用例がある。地域での指導者に、部活動指導を担ってもらうようになった実際はこの活用例の1つ。

(5)医療においても、質的な悪化が生じないよう、治療効果を目的変数とした、いわば外部監査にて、質的劣化を防止しながらの、少ない医療資源を有効に活用しえる医療システム管理手法の開発と適用、そしてそれらが可能になる制度設計が求められると提言を出されました。

 

 

  •  フロアより

ある地方医師会の理事より、以下の問題提起がありました。

(1)医師の過重労働の問題を解決するには、たとえば外科系に進路を選択する医師の激減ぶりからも、診療科偏在の解消が不可欠。
(2)激務をこなさざるをえない診療科に対しては、医師の就労を誘導するための金銭的なインセンティブが働く仕掛けが必要である。

 

写真提供 日本医師会広報課田中秀明様

 

千人に一人が医学部に進学できる時代です。自身のキャリアは今のままでよいのか、大いに考えさせられました。

 

 .

 

参考文献

1)「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマに開催 第30回日本医学会総会 2019中部.日医ニュース 令和元年(2019年)6月5日

2)櫻澤博文.パーソナルゲノム科学時代における産業保健.健康開発15巻2号:45-51,2011

3)櫻澤博文.人口減社会における産業医の為すべき介護離職防止~わが国最大の公衆衛生上の課題対応に向けて~.健康開発 23巻2号:75-80,2018

4)内田 和成.仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法.東洋経済新報社,2006年3月31日

5)櫻澤博文.復職・セルフケアガイドブック.金剛出版,2017

6)櫻澤博文監修.キャリアコンサルティングに活かせる 働きやすい職場づくりのヒント.金剛出版,2018年3月25日

7)Sokejima S, Kagamimori S. Working hours as a risk factor for acute myocardial infarction in Japan: case-control study. BMJ. 19(317):775-80,1998

 



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