メンタル産業医ドクター櫻澤のヘルシーコラム|「あざみ野STYLE vol.45」に掲載

健康経営に長けたメンタル産業医で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)代表の櫻澤博文執筆 
『メンタル産業医 ドクター櫻澤のヘルシーコラム いつもこころにうるおいを!コロナ禍だからこそ、カラダとココロの健康におすすめしたい亜鉛」が、以下に掲載されました。

 

出典:あざみ野STYLE vol.45 2021SUMMER

2021年3月16日に警察庁と厚生労働所から公表された2020年の自死(自殺)者数(確定値)は2,1081人(対前年比104.5%、小中高生は499人)と11年ぶりに増加していました。心理学的剖検という、遺書は遺族からの死因分析からみた自死の動機で一番多かったのは「健康問題」の48.4%(対前年比103.4%)でした。当シリーズでは、この「健康問題」が、そもそも発生しないよう啓発し続けてきています。それはこの「健康問題」が解消しえたら、自死を48.4%も減少しえるものと期待しているからです。「食事」という字を分解すると、「人」を「良くする」「事」と分解できるように、食事を改善すると、健康状態を改善しえます(滋養といいます)。しかしながら新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が毎年のように発令され、その都度、外出自粛から、知らず知らずのうちに偏った食事摂取に陥る人が出てきています。更には食品会社の製造商品の品ぞろえは、1つあたりの容量が大きくかつ、いわゆる定番に絞っているとか。スーパーで購入する際、いわゆる「三密」を避けるために、ゆっくりかつじっくりと商品を見定めるより、短時間で購入できる商品を消費者側が選ぶ際には、つい、なじみの商品を選考してしまいがち。つまりは多様性より恒常性。食事が偏り易い傾向が日常化しやすい状況が1年以上、続いています。

 

加えてコロナ対策に、マスク装用といった抑圧的な日常が続いていると、いわゆる「ストレスホルモン」という副腎皮質ホルモンであるステロイドが消費され続きます。ストレスと対峙する副腎にとって、慢性的なストレスが加わり続けると、欠乏しやすくなる成分が「亜鉛」です。亜鉛は神経と神経との間において、情報のやり取りをする「神経伝達物質」を作る働きもあります。またこの亜鉛は、鉛や水銀といった有害金属を体外に排出する働きもありますが、不足すると鉛や水銀は体内に蓄積され、正常な身体活動を鈍らせてしまいます。つまり、亜鉛不足で副腎皮質ホルモンの産生が低下すると、ストレスに弱くなるだけではなく、波及効果として、神経伝達物質の作成量が低下することで、神経活動が鈍くなり、集中力や気力の低下や感情の起伏が激しくなります。加えて有害金属が体内に蓄積しやすくなることより神経活動の低下から疲労は蓄積し、体力は減弱してしまいます。

 

ここで“亜鉛って、そんなに重要なの?”と疑問を感じられた方へ

ためしに以下の症状がないか、確認してみてください。

 

□物忘れしやすくなった

□味が薄く感じられ、つい濃い口にしてしまう。

□皮膚ががさつきやすくなったり、髪の毛が抜けやすくなった

□風邪を引きやすくなったり、虫刺されや擦り傷が膿みやすくなった

□食欲低下は胃もたれ、腹部膨満感、下痢といった消化器症状が出やすくなった

□女性であれば月経不順、男性であれば精力減退

 

 

これらは亜鉛不足で引き起こされている可能性があります。

 

原因は以下を確認してください。

 

□ながら食いできるパンやファストフードをよく食べる

□毎日飲酒するようになった、もしくは「ストロング」系を良く飲むようになった

□そういえば体重、血糖値、コレステロール値、血圧といった生活習慣病の値が増大

 

 

亜鉛不足の原因

 

コロナ禍に伴う体重増で引き起こされる、

いわゆる「メタボ状態」は四六時中(医学的には慢性的にといいます)血管内皮細胞に対して、コールタール混じりのヘドロのような重油をぶちまけるようなもの。つまりはストレスを与えます。
高血圧になると、四六時中、血管という風船の中に、ヘドロ入り重油を入れて膨らませるようなもの。糖尿病になると、水あめをストローの中に流し込むようなもの。

喫煙すると、呼吸器系といわれる咽頭細胞や気管支、肺胞に排気ガスや下水の汚泥を塗り続けるようなもの。

<理由>
それぞれ細胞、組織、臓器、全身へ四六時中、高いストレスを与え続けます。その影響で副腎皮質はステロイドホルモンという、ストレスを緩和する作用を持つ副腎皮質ホルモンを産生するのですが、食事が偏っていると、産生に必要な亜鉛が不足してしまい、ストレスを解消できなくなってしまいます。

 

亜鉛の体内での分布

亜鉛は体内に約2000mg存在し、主に骨格筋、骨・骨髄、前立腺、皮膚、肝臓、脳、腎臓などにある成分です。鉄の次に多い微量ミネラルとなっています。当然に体内で作り出すことができないため、食事から摂取する必要があります。

亜鉛の持つ作用

亜鉛はたんぱく質で出来ている、数百もの酵素の構成要素として、さまざまな生体内の反応に関与しています。コラーゲンを含めアミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成にも関与しています。胎児や乳児の発育や生命維持に非常に重要な役割を果たしているほか、骨成長や肝臓、腎臓、インシュリンを作るすい臓、精子を作っている睾丸など、「新陳代謝」というように、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルです。新陳代謝というとエネルギー代謝や免疫反応にも関与します。また、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾細胞にも関与しているように、体内のさまざまな生理活性活動を円滑にし、健康を保全する役目を持っています。

神経機能の維持

記憶力や情報の処理には、神経と神経の間をつなぐ、神経伝達物質が過不足なく作られる必要があります。この神経伝達物質を合成する際に亜鉛です。
亜鉛が体内に十分にあることで、神経と神経の間の情報処理が円滑になり、結果として精神機能や感情が安定することになります。

 

生殖機能の改善

男性の生殖細胞である精子の形成に必要とされます。また妊娠の維持にや胎児、小児の成長・発育にも必要とされます。

味覚を筆頭とした感覚の維持

我々が味を感じるのは、舌に「味蕾(みらい)」という感覚受容器があるからで、その中にある味細胞は新陳代謝が盛んで、材料となる亜鉛を常に必要としています。他にも臭覚や聴覚の維持にも必要とされています。

抗酸化作用

亜鉛はビタミンAが持つ抗酸化作用を高め、悪玉コレステロールといった過酸化脂質の害から細胞を守ってくれます。

免疫力の向上

前述ビタミンAには、皮膚や粘膜を丈夫にする作用があります(お手元のハンドクリームにも入っているかも?!)。そのビタミンAを皮膚や粘膜内に留置させ、抗酸化作用を発揮しやすくする作用を持ちます。従って、粘膜でおおわれている鼻腔内や口腔内での炎症作用を緩和する働きがあり鼻水・鼻づまり、のどの痛みなどの炎症を伴う風邪の諸症状を緩和します。皮膚でいうならば、切り傷、擦り傷といった皮膚の炎症から皮膚を保護し回復を促す効果があります。

 

新陳代謝の維持促進効果<髪や肌の健やかさを維持>

亜鉛はたんぱく質代謝を促進する作用があります。皮膚や髪の毛もたんぱく質で構成されています。ストレスを受けると皮膚がカサカサ、ガサガサになったり、脱毛したりするのは、亜鉛不足によるたんぱく質合成の低下が原因です。高ストレス時には、亜鉛を積極的に摂取することが美肌や美髪を維持する秘訣になります。

糖尿病予防

すい臓でのインシュリンの製造に必要です。

 

1日の摂取の推奨量は18~69歳の男性で10㎎、70歳以上の男性で9㎎、18~69歳の女性で8㎎、70歳以上女性では7㎎となっています。

 亜鉛の過剰摂取は銅欠乏、貧血、胃の不調など様々な健康被害が生じることが知られているため、耐容上限量は18~29歳の男性で40㎎、30~69歳の男性で45㎎、70歳以上の男性で40㎎、18歳以上の女性で35㎎と設定されています

亜鉛を多く含む食品

 

100g当たりの含有量が多く、スーパーで買えるようななじみな食材を挙げると以下となります。

かき(養殖/水煮)14.5㎎

ボラ からすみ  9.3g

ビーフジャーキー8.8mg

まさば さば節  8.4mg

炒ったかぼちゃ 7.7mg

牛のひき肉 焼き7.6mg

牛のもも肉 ゆで 7.5mg

パルメザンチーズ 7.3mg

かたくちいわし 煮干し 7.2mg

ココア 7.0mg

 

このように魚介類や肉類に亜鉛が多く含まれています。

 

 

参考:日本人の食事摂取基準 2015年版