2023年3月5日に東北大学高度教養教育・学生支援機構 大学教育支援センター主催、文部科学省や経団連後援のシンポジウム「日本の「人材育成」を問い直すー大学、企業、政府は何をなすべきかー」が開催されました。
【イノベーション】に向け、人在(過去の栄光にすがるかのような存在)を、持続的かつ自律的な成長を促し、自立しえるような人財(自ら利息を生み出せる)へ育成するにはどうしたら良いのでしょうかか?(おりしも日本経済新聞「私の履歴書」において唐池恒二氏の記述が2023年3月にはなされています。彼の記述によると、旧国鉄の九州地区では当時、1万2千人もの職員が「余剰」とされていて、その人員整理に奮闘されていたとの記述がありました)。
その論点を人的資本管理を人的資産経営に昇華させることが健幸(ウェルビーイング)経営そのものととらえている合同会社パラゴン(東京都港区)としても、東北大学 高度教養教育・学生支援機構 大森 不二雄教授より「日本の人材育成データから見える課題」という題で、人材育成データという、いわば人的資産や人的資源管理におけるデータなのでしょう。日本における大学教育や就業後のリカレント教育も含めた高等教育の課題や対策が紹介されたので視聴しました。
キースライド
多様性は能力に勝る
多様性ある組織だと、組織内の多様な文化間の摩擦が組織のルーティーン(思考停止)から構成員を解き放ち、広く深い思考を促し、新たな価値を創造するイノベーションに繋がるとの知見が、組織社会学ではあるとのことでした。
出典:Stark, D., 2009, The sense of dissonance: Accounts of worth in economic life, Princeton, NJ: Princeton University Press.
デヴィッド・スターク,中野勉・中野真澄訳,2011,『多様性とイノベーション―価値体系のマネジメントと組織のネットワーク・ダイナミズム―』日本経済新聞出版社.
また、一様に優秀な人々よりも、能力はやや劣ったとしても、多様な視点を持つ人々で構成されている集団の方が、より成果を上げやすいという分析結果もありました。
出典:Page, Scott E., 2007, The Difference: How the Power of Diversity Creates Better Groups, Firms, Schools, and Societies, Princeton, NJ: Princeton University Press.
米国では、大学教育における人種・文化・宗教・価値観・政治的意見等の多様性の経験が批判的思考の育成に資するとの研究結果があります。
出典:Pascarella, E., Martin, G., Hanson, J., Trolian, T., Gillig, B. & Blaich, C., 2014, “Effects of diversity experiences on critical thinking skills over 4 years of college”, Journal of College Student Development, 55(1): 86-92.
マージナルマン
「境界人」(marginal man)という概念が社会学にはあるとのこと。多種多様な学問背景、多彩な人種(例えばユダヤ人には起業家、思想家、藝術家、学者に多いとのこと)。
いわゆる 「よそ者、バカ者、若者」が組織変革やイノベーションに必要であることは、確かに1961年にタイプライターを製造しえたことからミシン製造から今日の情報処理機器会社へと変貌した安井正義によるブラザー社が有名です。若者は改革・変革、革新しやすい素材だ。燃える情熱を引き出す酸素は、上長(リーダー)からの積極的褒め褒め作戦だということ、当社代表も聴いたことがあるからです。
さて、この「よそ者、バカ者、若者」という特徴を持つ変革者は、その所属する集団(国家、地域、企業、組織、群)において、非主流であることを示します。いわゆるぬるま湯的な人間関係が、時間がたつと生み出してしまう「しがらみ」からも自由な存在でいられます。「サル」と呼ばれた木下藤吉郎や「うつけ」と呼ばれた織田信長が有名なように。当人らは偏見や排斥の対象ともなり、精神的にも葛藤を経験し、不安定さに身を置かれましょう。しかし 【捨てるということは得ること 得ることは捨てること】よろしく、不明確な所属や帰属先、不安定な社会的位置に固執することなく、深い省察や多様な視点を伴う批判的思考や創造性の源になるものと考察されていました。
マージナルマンを生かした組織運営
大学では「実務家教員」として。企業ではZ世代や学生目線の新コンセプトの商品化、上智大学のように学生職員という大学運営にまで具現化されています。
前者によって学生の大学教育への動機付けは高められています。社会人をリカレント教育へ惹き付けるなど、大学において学びと社会を繋ぐ役目を担っているように、すでに産学間の人材と知の往還は先導されています。
諫言ではなく甘言へ換言するような「良薬 口に苦し」を知らないブラック企業も存在していている中、「これだ!日本 ~経済復活へのリーダーシップ」BSテレ東 2023年3月4日で取り上げられていたニトリホールディングスは、執行役の6割7割が よそもの とのことでした。
もとい
今後はアメリカのように、産から学への片道切符ではなく、産学間の越境を繰り返す人材、あるいは、産・産間や学・学間を含めた【越境人財】が出ることが理想です。
批判的思考(critical thinking):自律性&知的誠実性
「科学」が「科学」たりえているのは、批判的吟味を踏まえた科学性があるからです。この批判的吟味があるからこそ、学問としての科学は発展し続けることが可能です。この批判的吟味は、学問体系を超え、そしてサービスやビジネスにおいても汎用性(ジェネリック)ある基本技術であるとの捉え方が見直されてきています。なぜなら根拠に基づくという客観性があり、主観を排除することより偏りはなく論理的に、思考過程を省察的かつ熟慮的に吟味しえます。
これは疫学的に、または医療統計学的検定に基づく吟味でも同じです。決して 相手を非難する思考ではありません(内省的側面)。更にはこれまでの常識や権威に対しても「疑問を持つ力」(外攻的側面)
出典:楠見孝・道田泰司編,『批判的思考と市民リテラシー―教育,メディア,社会を変える21世紀型スキル―』誠信書房,2016
経団連 2006年に自律型人財が必要と提言
「企業の活力・競争力の源泉となる最も大切な資源は人材であり、企業は取り巻く内外の環境変化に伴い、人材管理・育成のあり方を再構築していく必要がある。最先端の分野から現場に至るまで、また、創造的な業務から定型的な業務まで、求められる能力は異なるものの、それぞれの職場で自律型人材(自ら主体的に考え行動する人)が不可欠となっている。」
出典: 日本経済団体連合会 「主体的なキャリア形成の必要性と支援のあり方 ~組織と個人の視点のマッチング~」 2006年6月20日
メンタル産業医による人的資産投資を介した健幸(ウェルビーイング)経営支援サービスで知られるのが合同会社パラゴン(東京都港区)。これまでも健幸(ウェルビーイング)経営支援には、人的資本管理での人的資産価値を向上するような、積極的な人的資産投資が求められること、その評価に労働分配率が使われることを紹介してきています。その背景に、今日の日本は手痛い停滞をしており、中でもそれは経済状況で把握しえること、その理由には、労働経済上の数値から把握しえること、このサイトで取り上げてきております。
参考:健幸経営型産業医が紹介|労働分配率で判るウェルビーイング
対策としては失敗の単価を下げるというチャレンジする姿勢や、それを生かす組織運営が大切だということを伝えてきています。前者は池野文昭先生からの教えを2019年に紹介しました。
後者としては、失敗を許容する環境かどうか、80項目版ストレスチェックだと簡単に把握可能だということから。
参考:池野文昭先生の教え|第30回日本医学会総会2019中部報告①
参考:健康経営に向けて|ストレスチェックで使われる質問項目は80項目版が実質標準に
更に具現化した組織もある実例も紹介してきています。
これらの取り組みは、学問体系から鑑みても理路整然としたものとご理解可能でしょう。