ストレスチェック25|数値基準に基づいて高ストレス者を解りやすく選定する方法(21/02/06)
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ストレスチェック25|数値基準に基づいて高ストレス者を解りやすく選定する方法(21/02/06)

2015年08月13日(木)4:16 PM

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル (以下 マニュアル)の40ページ以降にある高ストレス者選定方法について をストレスチェック制度導入に長けたメンタル産業医で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)がわかりやすく解説された参考サイトを紹介します。

 

 
 

ストレスチェックの結果の評価方法

「職業性ストレス簡易調査票」を用いた場合の、労働者個人のストレス状況の把握や、評価方法は大きく分けて2 つあります。


結果の点数を単純に足し合わせる方法

と、

素点換算表を用いた評価を行う方法の2 つです。


自社内で実施する場合のストレスプロフィールの判定ツールとしては、厚生労働省が構築した「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」があり無償利用できるようになっていますので、社内で評価を行う場合にはダウンロードしておきましょう。ストレスチェックの実施や評価を外部機関に委託されている場合には、外部機関の実施事務従事者に相談ください。


ストレスチェックの実施後には、実施者は医師による面接が必要な労働者を抽出する必要があります。医師による面接の対象となる労働者を「高ストレス者」といいます。この「高ストレス者」を「職業性ストレス簡易調査票」の結果から抽出するための基準は、前述の「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」では簡単にセットできるようになっています。

ストレスチェック実施マニュアルでは「高ストレス者」の基準を10%としています。マニュアルにおいて、この基準が選定された背景を説明すると、以下のようになります。


まず、自覚症状が認められる労働者のグループがあります。「心身のストレス反応」の評価点数がとても高いグループのことです。こちらは心身の自覚症がすでにあることから、対応が必要な労働者が含まれている可能性が高いグループです。


次に、「心身のストレス反応」の評価点数が高くかつ「周囲のサポート」の評価点数との合計が高いグループがあります。こちらは顕著な症状は出ていないものの、仕事量が多いことに不満を感じていたり、周囲のサポートが得られていないと感じていたりすることから、メンタル不調になりやすいことが想定できます。


ストレスチェック制度の導入の主眼には、働きやすい職場環境づくりを含めた一次予防の推進があります。制度の目的を鑑み、自覚症状が出る前の段階であっても、出てもおかしくない要因が職場内あるような場合には、「高ストレス者」の区分に加えることになりました。

57 項目版簡易調査票を使った単純加算法をストレスチェック実施マニュアルでは「高ストレス者」の基準を10%としています。57 項目版の簡易調査票を使い、単純加算法で基準を10%とした場合の高ストレス者の選定方法は以下のとおりです。概要を知りたい方はストレスチェック実施マニュアルか、仔細については当社代表の著作に解説がありますのでご確認ください。
 
参考サイト:さくらざわ博文.もう職場から”うつ”を出さない!.労働調査会



ストレスチェック実施マニュアルの巻末165 ページにある「標準版反応29 項目と要因26 項目のクロス集計表」をご覧ください。「心身のストレス反応29 項目」とい
うタテの項目の77 点の行の右端には、累計値が7.9 とあります。これは「心身のストレス反応29 項目」で77 点以上を示した方の割合が7.9%であることを示しています。

次に「要因17 項目支援9 項目」というヨコの項目の76 点の列をご覧ください。

「心身のストレス反応29 項目」63 点の行との交点には、4.7%とあり(①)、77 点の行との交点には2.7%とあります(②)。①から②を引くと4.7-2.7=2.0%が求めることができます。
「心身のストレス反応29 項目」で77 点以上を示した方の割合が7.9%でした。対して「要因17 項目支援9 項目」が76 点以上であり、かつ、「心身のストレス反応29
項目」が63 点~ 77 点である方の割合は2.0%であることがわかりました。

ここでの“7.9:2.0” はほぼ8:2 ということになります。これがストレスチェック実施マニュアルにおける、㋐と㋑の比率を8:2 とし、高ストレス者の割合を全体の10%程度とした場合の例に相当します。

従って、「職業性ストレス簡易調査票」(57 項目版)を使い、10%を基準とする単純加算法を採った場合の高ストレス者は、「心身のストレス反応」の合計点数が77 点以上である労働者に加え、「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」の合計点数が76 点以上かつ「心身のストレス反応」の合計点数が63 点以上である労働者となります。
ここで「8:2」の比が評価基準例として示された根拠を紹介します。

厚生労働省の検討会では、当初、評価基準例として示す候補として、「9:1」、「8:2」、「7:3」が挙がっていたそうです。検討会の参加者の話によると、いずれの比が適切かを決める際に、3 候補の真ん中だからとの理由で「8:2」になったとのことです。

57 項目版簡易調査票を使った素点換算法素点換算法で基準を10%とした場合の高ストレス者の選定方法は以下のとおりです。

まず、「心身のストレス反応」(29 項目)の6 尺度(活気、イライラ感、不安感、抑うつ感、疲労感、身体愁訴)について、素点換算表(図表2)により5 段階評価(ス
トレスの高い方が1 点、低い方が5 点)に換算し、6 尺度の合計点が12 点以下(平均点が2.00 点以下)である労働者を選定します。

次に「仕事のストレス要因」(17 項目)の9 尺度(仕事の量、仕事の質、身体的負担度等)と「周囲のサポート」(9 項目)の3 尺度(上司からのサポート、同僚から
のサポート等)の計12 尺度について、素点換算表により5 段階評価(ストレスの高い方が1 点、低い方が5 点)に換算し、12尺度の合計点が26 点以下(平均点が2.17点以下)であって、かつ、「心身のストレス反応」の6 尺度の合計点が17 点以下(平均点が2.83 点以下)である労働者を選定します。

上記のいずれかの方法で選定された労働者が「高ストレス者」と評価されます。



「高ストレス者」の基準10%について


ここまでストレスチェックの受検者のうち、医師による面接実施する「高ストレス者」をどれだけの割合、抽出したら良いのかを、10%という値で例示してきました。しかしながらその割合は、衛生委員会等で調査審議の上で会社独自に決めて良いとされています(厚生労働省「ストレスチェック制度関係Q&A」Q4-1 より)。

すなわちこの10%という数字は、高ストレス者として抽出する目安として示された割合ではありません。そして、10%という基準は、「職業性ストレス簡易調査票」を開発した下光輝一東京医科大学名誉教授から以下のような痛烈な批判を受けたことは紹介しました。

参考サイト:合同会社パラゴン.ストレスチェック その6|ストレスチェックで使われる質問項目は80項目版が実質標準に


なぜこのような批判がなされたのでしょうか。その理由としては、そもそもこの数値が挙げられる過程において統計学上、間違いをおかしていることが挙げられます。

「職業性ストレス簡易調査票」による結果は、数値を集めることで分布を示します。

示された分布には「高ストレス者」もいれば「低ストレス者」もいます。

これまで医学では「95%信頼区間」という概念を応用してきました。これは、偶然という要素は20 分の1 も生じ得ないという仮定に基づくものです。結果や状況の分布をみたときに、全体の95%が含まれる範囲を「正常範囲」とみなし、95%から外れる5%を正常範囲外とみなすということです。すなわち正常範囲外の5%も偶然は生じることはないという仮定を踏まえた上で、医療や保健の支援という介入対象者を選考してきています。


今回もこの概念に倣ってはいるものの、両側検定をすべきところ、片側検定で判断してしまっています。95%信頼区間から外れる5%の区間は両側に分布しています。
つまり、正常範囲外の5%に該当するのは、高ストレス者側と低ストレス者側のそれぞれ2.5%です。それにも関わらず、高ストレス者の割合だけで10%としてしまいました。これは、偶然は高ストレス者側にしか生じないという誤解に加え、安全係数を2 にしたことによるものです。このような場合に「安全係数」を使うことは普通ではありません。

実際、ストレスチェックを受けた労働者のうち、1 割もの労働者を高ストレス者と捉え、医師による面接につなげることは現実的でしょうか。実際にどれだけの方が本当にメンタル不調なのかという観点から、検証してみることとします。

ある疾患を想定して診断検査を行う前に、どれくらい、その疾患の可能性があるのかということを「検査前確率」といいます。
この「検査前確率」のおおよそを把握しておくことは大切です。

参考となる数値を示すと、長時間労働者に対する医師による面接制度をほぼ強制的に実施している企業でのデータでは、長時間労働という過重労働を強いられているハイリスクな労働者においてでも、精神科医療が必要になった割合は1 万人に1 人でしかありませんでした

出典:NPO 健康開発科学研究会2011 フォーラム「メンタルヘルス不調は予防できるか」、林剛司報告「メンタルヘルス不調の現状」

こちらの研究における問診票は「疲労蓄積度チェックリスト」と、質問項目は自覚症状が13 個、勤務状況6 個と合計19 個と少ないものです。とはいえ「職業性ストレス簡易調査票」のように項目を23 とか57に増やせば正確さが増加するというものでもありません。1 万分の1 のように「検査前確率」が低い状況で得られた陽性結果には、疑陽性の可能性が高まることが知られているからです。すなわち、本当の病気でもないのに、病人扱いさせられてしまう方が多く生じてしまいかねません。従って、きちんとメンタル不調を判別可能な専門職に面談させる必要が生じます。



調査票自体の限界



「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル」においても以下のように注意として記載されています。

①職業性のストレス調査票であり、仕事外のストレス要因等、たとえば家庭生活におけるストレス要因などについては測定していません。

②回答者のパーソナリティについて考慮されていません。評価にあたっては、自記式の調査票にみられる個人の回答の傾向について、考慮する必要がある場合があります。

③調査時点の直前1 カ月におけるストレス状況しか把握できません。

④結果が、必ずしもいつも正確な情報をもたらすとは限りません。


あえてこの高ストレス者10%基準の良い点を考慮してみます。
1 年に一度の検査で1 年全体のストレス状況を把握することには限界があります。10%という広い数値を設定することで、多くの方を「高ストレス者」として区分し、長時間労働者の医師による面接制度のときと同じく医師による救済を与えようという背景があったのかもしれません。

実際、長時間労働者に対する医師による面接制度を通じた労働時間の改善が有用だったとの疫学的評価をみることが出来ます。
従って、余裕のある企業は、従業員の10人に1 人に医師による面接をさせても悪くはないでしょう。しかし、大半の企業はそこまでゆとりはありません。ではどうした
ら良いでしょうか。

対策としては片側検定で2.5%にすることが挙げられます。ストレスチェックの検査結果が高ストレス上限から2.5%側までに位置する、割合としてはストレスチェック受検者40 人につきストレスが高い側から1 人を医師による面接の対象となる「高ストレス者」にしましょう。
ストレスチェックの結果が、たまたまある一定値より高くでてしまったという偶然は、40 人につき1 人未満しか起こらないという統計学的見地に基づいた判断です。

医療行為は科学性に立脚したものであることを忘れてはなりません。

 面談等により高ストレス者を選定するストレスチェックの結果だけでは面接指導の対象者選定が難しいときのために、「ストレスチェック指針」では「実施者」が面接して「高ストレス者」を抽出する方法を挙げています。とはいえ、「実施者」が医師の場合には、医師による面接者を抽出するという目的とは外れ、費用負担に違
いは出ません。そこで3 つの抽出方法を紹介します。


⑴相談先を紹介する


実施者は「高ストレス者であって面接指導が必要と評価された労働者であって、医師による面接指導の申出を行わない者に対して、相談、専門機関の紹介等の支援を必要に応じて行うこと」が望ましいとの記載がストレスチェック実施マニュアルにあります。すなわち、「高ストレス」と評価されたにもかかわらず医師による面接指導の申出を行わない方に対しては、専門の相談先を紹介するとよいと理解できます。


⑵「補足的面談」を行う


ストレスチェック実施マニュアルには以下のような記載があります。
「高ストレス者の選定にあたり、調査票に基づく数値評価に加えて補足的に労働者に面談を行う方法(補足的面談)も考えられます。この場合の面談は、ストレスチェックの一環として行うことになりますが、実施者以外の者に行わせるときは、その者が職場のメンタルヘルスに関する一定の知見を有する者(実施者として明示された者以外の保健師等の有資格者のほか、キャリアコンサルタント公認心理師といった国家資格保持者)であって、面談を行う能力がある者かどうかを実施者が責任をもって確認する必要があります。また、この場合、面談は実施者の指名と指示の下に実施し、面接指導対象者の選定に関する判断は、面談を実施した者に委ねるのではなく、面談結果を踏まえて実施者が最終的に判断する必要があります」

「高ストレス者」と区分された労働者には、最初から「実施者」の指示を受けた医師以外の保健師、一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士に加え、産業精神保健に見識のある心理職(臨床心理士や産業カウンセラー等)らによるこの補足的面談を行う仕組みを講じておくとともに、「高ストレス者」から医師による面接が必要な方を推薦してもらう業務を担ってもらうということです。

質問票を通じた調査だけでは把握が難しい家族背景、ストレス解消法、仕事への向き合い方の把握が出来るため、医師による面接指導の要否判断に有用な情報を入手可能です。その結果、本当の病気でもないのに、病人扱いさせられてしまうという「疑陽性」を除外することが可能となります。

しかし、この方法にも限界があります。補足的面談もストレスチェックの一部であるため、本人が面談を拒否したら強制が出来ないからです。

以上のサービスを読者の皆様は割引価格で享受できるようになっています。それがcotree社によるオンラインカウンセリングサービスです。


⑶「ストレス反応」の質的評価

「職業性ストレス簡易調査票」の「ストレス反応」の6 つの尺度のうち、「抑うつ感」と「不安感」がストレスによる影響が重大な際に影響が出る尺度です。従って、
この二つの項目に着目して抽出する方法があります。

 面接を拒否した労働者への対応
「高ストレス者」が医師による面接を拒否した場合の対応として、次に記載する2つの方法があります。

⑴精神疾患のスクリーニング実施と結果に応じた専門機関の紹介やご家族への連絡

読者の皆様からしたら、「『高ストレス者』でありかつ、医師との面接が必要と判断されているにも係らず本人が拒否しているだから、事業者責任が問われないのではないか?」と考えられるでしょうが、責任が生じる場合があります。「事故傾性」といいますが生命維持の基本として大切な選択をなしえなくなっている場合があります。

また、事理弁識力が落ちていることは抑うつ性障碍(いわゆるうつ病)はじめ、精神疾患の特徴の一つです。すなわち、正常な判断が出来なくなっている方にはより一層の高い保護責任義務が生じる可能性があるのです。

ストレスチェック実施マニュアルでは自死リスクを含めた精神疾患のスクリーニングを検査に盛り込むことは不適当とされていますが、体制が十分な企業ではむしろ含めるべきであることを私たちは検証を通じて提言しております。精神疾患を把握せずに、実際に自殺者が出た場合には、遺族から安全配慮義務履行違反に問われかねませんし、そもそもそのような結末を出してはいけないでしょう。

実際に、これまでもメンタル不調が疑われる社員に対しては、安全配慮義務の履行上、精神科受診を紹介したり、拒否する場合にはご家族に連絡をしたりといった対応が執られています。


⑵補足的面談時にカウンセリングも提供


補足的面談を行う際に、実施者やその委託を受けた心理職が、その場で、「では、私のカウンセリングを希望されますか?」
と確認を行い、その場ですぐにカウンセリングを提供する支援を構築する方法(いわゆる「インテイク面談」)があります。

カウンセリングの継続実施につなげていくか、後日、産業医や専門医による面接を組むようにするかの判断はわかれますが、少なくとも「高ストレス者」に対する専門的支援という“ 救命胴衣” を装着することは可能となります。メンタル不調者の発生防止にもなり得ますし、もし発生したとしても、それら心理職との面接等という機会を設けたことから、過失相殺が期待できます。

それでもご心配な場合は、日常的に労働者に対してメンタルヘルスに通じた産業医による相談支援を提供することと、これら専門職との相談窓口を元から設けておくことで、リスクの分散が可能です。

 



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