全国医書同業会主催 第84回研修会(2019年6月9日)でのメンタル産業医命名者である合同会社パラゴン
(東京都港区)代表の櫻澤博文による講演
「産業医がひも解く中小企業のための 働き方改革関連法対応とは」の内容仔細が
全国医書同業会発行の「医書界」第171号に掲載されました。
ストレスチェック実施後の集団分析の活用方法、特に ポジティブ心理学に基づいたイキイキと快適で働きやすい職場づくりが可能な職場環境改善計画の進め方、実践方法が効果的だったとのコメントをもらいました。
出典:合同会社パラゴン.ストレスチェックその35|集団的分析を踏まえた快適職場環境改善計画とは
2019年4月から施行されている働き方改革法を取り上げました.未対応企業が今回の話をもとに対応準備が実施できるようにです。
5日間の有休休暇の取得は全企業にすでに適用されていました.
昨今の人手不足に対しても働き方改革にて残業の少ない職場にしていくことが離職率を下げ,新規採用のときに応募者が多く集まるのではないかと期しています.
〈ダブルカロウ問題〉
過老社会では若者という後継者がどんどん減り,いつまでたっても若者の入社は期待できません.これが過労問題だという事例を紹介しました.ある会社で「過重労働を避けてくださいよ」「長時間労働が多いではないですか」と話をすると,社員紹介制度があり「人を探してきてください」「あなたも社員ですから社員を連れてきてください」と.そういう会社が現実にあります.私も人を連れてこないと自分の仕事が減らない.それくらい今,人手不足で悩んでいるのが今の日本の実態です.
〈ピラミッドから棺桶へ〉
その実際を示します。1965年時点での日本の人口ピラミッドはまさしくピラミッド形です.
同級生が200万人近くいた時代です.
それが2050年には棺桶形になります.過老に伴ってますます労働力が減ることより,今,働き方改革を進めることが未来に良い展望を描く術だと理解できましょう.
また1995年をピークに生産年齢人口は右肩下がり.一昨年生まれた人は94万人,一昨年は92万人を切っています.それだけ時代は変わっていますし更に変わっていきます.せっかく雇った人財に見捨てられないよう積極的に、人材の人財化という健康投資が求められます.人生100年時代ですので,人に教育,研修,資格を付与するべきです.そういう意味で皆様方は休みの日にもかかわらず,勉強に来てくださっている先駆者です.同じようなことを部下に提案,提供していくことがよいと思います.
〈第3次産業は大惨事〉
6月は全国労働安全週間準備期間,7月1~7日は全国労働安全週間です.それは労働災害をゼロに持っていくために国が推奨して開催しているものですが,製造業とか建設業,そういったいわゆる3K企業は業界団体を挙げて安全に取り組んでいるので,労働災害による死亡や重症災害は減ってきています.
一方,スーパー,小売店,の裏方の職場では労働災害はふえる一方です.サービス業においても,人知れず労働災害がふえています.ハンバーガーチェーン,でバイトしている女子高生,女子大生がフライドポテトを揚げる.その油がこのあたりに散っているわけでしょう,そうすると私のギャグみたいにスベってしまう.そうするとバシャッと煮立った油に顔を突っ込む事態が! こういう悲惨な労災が実はあります.したがって「第3次産業は大惨事」.これは私のオリジナルネタです.
〈中小企業がすべきこと〉
中小企業の定義に当てはまるところが大部分だということなので,中小企業を中心に申し上げます.製本出版,卸,小売り書店の方々もいらっしゃるということなので,それぞれ分類し,資本金,または常時パートも含め従業員数がこの数字以下でしたら中小企業で,逆にこれ以下ではない,これより大を満たすところは大企業ということ,になります.
中小企業と大企業が、早速今日から何をしたらいいか,何をしてなくてはいけないのか,そういった時間軸に沿ってお話ししました.
施行済ということで,もし労働基準監督署の監督官が来たときは守っていて当然といった目でチェックされます.
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〈労働時間適正把握ガイドライン〉
「労働時間適正把握ガイドライン」(以下ガイドライン)とは、2017年に国が、労働時間管理を厳正化するために出したガイドラインです。
着がえ,掃除,待機時間,今日のような仕事や業務に関係がある勉強,研修,研鑽時間も労働時間だということがガイドラインで決められていますので,その分は手当てを出さなければなりません.
また、タイムレコーダー,タイムカードや,最近はセキュリティカードなどで労働時間を適正に把握することがガイドラインで示されました.労働基準監督官も労働者と会社側の言い分が違った場合は,ビルの入り口に何時何分に入ったか,パソコンのログイン時間,電気消費量も証拠として把握しています.
ガイドラインには,記録を残すだけではなく,最低3年間は保存しましょうと書かれています.労働者側の申告との差異があっても困ることがないように賃金台帳を用意し,3年分は残しておきましょう.
〈有給休暇〉
有給休暇はだれに与えないといけないか.2つの条件があります.1つ目は,6ヵ月継続して働いている人.2ヵ月勤務し1ヵ月休んでといった人は関係ないということです.2つ目は8割以上出勤すること.休みがちな人には与えなくていいのです.また,6ヵ月以上働くような人,したがって正社員以外のパートでも契約社員でも身分の差は関係ありません.正社員ではなくてもこの2つの条件を,満足している人には有給休暇を与えなくてはいけません.
では,2019年4月から何が始まったか.先ほど申し上げた有給休暇を与えないといけない人プラス有給休暇の年次,その年に何日もらえるか.それは10日以上もらえる人限定です.10日以上もらえない人には与える必要はありませんし,10日以上与えられていない人には5日の時季指定をする必要はありません.みんながみんなに有給休暇を与えないといけないみたいなマスコミの報道もあり,ますが,“フェイクニュース”です.かつその10日全部与えないといけないわけではありません.10月に有給休暇があらたに付与される新入社員は次年度にかけて与えたらよいですし,昨年度の「36協定」の有効期限が今年にまたいでいる企業であれば,新たな「36協定」が有効となる日以降からの対応で構いません.
有給休暇の与え方については,労働者の意見を参考にしてください.労働者側がOKと言えばいいのです.「会社の設立記念日は休むことにしているから」「創業者の誕生日だから」,労働者が「わかりました」と納得してもらうことが大切です.
また,「労働者が旅行に行きたいから」と、先に夏休みを取ってしまいましたという場合には新たに5日与える必要はありません.なお、この5日の指定権については就業規則にも記載が求められます.
働き方改革というと,何だか労働者有利なことばかり取り上げていますが,労働者側だけではなく使用者側,事業者側にとっても働き方を改革するということは改善という意味合いもあります.今まで有給休暇の積算基準日を,入社する月,日などでばらばらにしていた企業があるかもしれません.積算基準日を統一してもよいことになっていますので,もしされていない場合は,統一して計算しやすいように,してはいかがでしょうか.
〈フレックス清算期間延長〉
会社側が取り入れるといい工夫として,フレックス清算期間延長というのがあります.これは今までフレックスタイムを導入している会社だと清算,1ヵ月すなわち翌月でしか清算できませんでした.もし,残業が多かった,その翌月に残業がなかった,残業しないで済むような月があったとしても労働者が時短勤務できなかった場合,翌月に清算できないと会社側は残業代を,払わないといけなかったのですが,1ヵ月ではなく3ヵ月通算していいということになりました.
例えば春が繁忙だけど2か月先の夏には閑散期を迎える企業の場合,労働者に夏休みを取りやすくする工夫にもなります。過不足の清算が翌月限定ではなく2か月先でもできるようになるからです.もしフレックスタイムを導入していない会社があったら導入してみることもよいと思います.残業代を減らす工夫という側面もありますが,労働者にとっても育児や介護との両立ができやすくなるという労使ウィンウィン対策だからです.
〈産業医業務強化〉
働き方改革関連法の中で,義務が強化されたのは事業者側だけではありません.産業医に対しても強化されました.例えば80時間以上残業した人の労働者情報を産業医に通知しなければいけないということは,その人の健康に問題が生じた場合には,その予兆を産業医が見抜けなかった場合には「産業医に伝えたのに産業医が何もしなかったから」というように産業医に責任転嫁が可能になります.むろんこの場合には、「そのような無能な産業医を産業医に選んだからではないか?」という良識の有無も問題になるので,きちんとした産業医を選任する必要が出てきました.何しろ産業医には衛生委員会での調査審議請求権も付与されました.つまり衛生生委員会での議題を産業医が出さず,それが原因で労働者や会社に不利益が生じた場合,産業医は責任を負わなくなったことになります.なお50名未満の小規模事業所に対しては産業医確保に向けた助成金があります.
〈ストレスチェック〉
ストレスチェックを有効に活用することで労働者にとって働きやすい職場づくりが可能になるのみならず、会社側からしたら高い生産性が得られることより,労使双方にとって便益が得られるようになります.せっかく雇用した労働者が辞めずに長く会社に貢献してくれるようになります.科学的に合理的な働きやすくなる工夫を加えることで,品質の高い労働力を提供してくれるようになります.イキイキと楽しく働くようになるので,自然と生産性が高まり,結果としてその会社の永続性は高まります.そのための助成金も用意されているようにすばらしい制度です.ストレスチェックというと国は標準版として23項目と57項目の短縮版の2つを用意していますが,これらでは足りません.どうしてかというと,これらの質問尺度は,元々は「メンタルチェック」でした.すなわち,いわゆる「うつ」 か 否かを見つけるためのものです.ストレスが原因となり病んでしまった人を見つけ,その原因を探るためにあるような尺度がもとになっていますので,ある意味働きにくい職場のあら探し,言い過ぎかもしれませんが「魔女狩り」的なものでした.実際にネガティブな,否定的な質問尺度が多いので,受けるだけで気が滅入るような気分になるからか,よろしくない答えしか出てこないのです.最近,「ポジティブ心理学」という学問体系を聞いたことがありませんでしょうか?皆様方も,従来の疾病の概念だけではなく,未病や予防,健康増進といった概念での記事を執筆する機会がふえてきていると思います.病理構造を探る心理学においても、前向きな,「ポジティブ心理学」という学問体系もできているようで,80項目版の「新職業性ストレス簡易調査票」では,その「ポジティブ心理学」の前向きな概念を確認する質問尺度も加えられている構成になっています.質問項目数は57の単に1.4倍の80項目ですが,切り口として4つの軸があり,4軸評価とすることで,1.4の4乗すなわち情報量は4倍となります.対してネガティブなことは4分の1に圧縮でき,働きにくいではなく,働きやすい要素も分析できますので,イキイキと生産性を高めるような回答を引き出しやすい構成になっているのみならず,「お互い支え合っていますか」「褒め褒めですか」「コーチングスキルを導入していますか」,「リスクのない仕事は単に夢物語,勇気をふるって挑戦して欲しい! どうぞ失敗して構わないから」といった,意欲的にチャレンジするような,働きやすい,堂々と前向きに仕事ができるような環境形成志向をも評価できる質問項目が入っています.この80項目版質問項目からして自分たちはどのような方向性,進路,ベクトルがどこに向かい,どこに向かわせていけばいいかも皆様方経営層としても,取締役や執行役とのベクトルを合わせやすくなるような,経営コンサルタントを使わず高いお金を貢がなくても済むような構成になっています.
そして80項目版の「新職業性ストレス簡易調査票」は,「集団分析」といいますが,自社内のみならず全国統計とで自社の位置をあたかも偏差値のように比較することもできますし,同業者の中での位置づけや,自社の中であれば部署単位,部門ごとの比較,年次評価,男女別評価や,入社年ごとの評価,職能別評価といったように,さまざまな切り口で皆様方の会社の従業員のストレス具合や前向きさといったものを比較することができます.ストレスチェックをした後,やりっぱなしの企業も多いかと思いますが,労働者1人1人のデータを集めるとそれは経営分析に使えるような優れたデータです.この分析を皆様方がする必要はなく,ストレスチェックを提供する実施者,提供する機関にお任せすると,企業によってはそういう経営分析みたいなことまでやってくれます.独立行政法人労働者安全健康機構(以下、機構)による「職場環境改善計画助成金」という助成金制度も,企業規模の大小問わず利用ができます.すなわち,帰属意識やモラールを把握するサービスを提供するコンサルタント会社がいくつもありましょうが,それらにお金を使わなくて済むようになります.なおストレスチェックを実施することに対しては,常時雇用する労働者が50名未満の会社に限り,助成金制度が同じく機構から提供されていますので,実質負担ゼロでストレスチェックを従業員に提供できます.
では,ストレスチェックを提供してくれる事業者はどこなのか.私が最善だと思うことをつくってくれたのが特定社会保険労務士の森近宗一郎先生が構築された「職業性ストレスチェック実施センター」です.特定社会保険労務士と申し上げましたが,単なる社会保険労務士と何が違うかというと,特定社会保険労務士は労働紛争の代理人になることができます.この森近先生は労働者側も使用者側も両方とも経験豊富なバランス感覚の優れた特定社会保険労務士です.労使双方を悩ますような場合にこの先生が間に入れば,ちょっとしたアドバイスは無料で相談に乗ってくれますので,今までストレスチェックを十分にやっていないところは,こちらに打診されてみてください.
具体的にストレスチェックや「集団分析」を実施するに際しても,皆様方が頭を悩ます必要はなく,森近先生の「職業性ストレスチェック実施センター」からコーディネーターが派遣されて,「集団分析」の結果が芳しくない部署や部門があったときも,その当事者を集めさえしたら,そのコーディネーターがそれら当事者を対象に,イキイキと働きやすい職場環境の改善に向けた支援を提供してくれます.なおこのイキイキと働きやすい職場環境づくりに関しても,「アクションチェックリスト(職場環境改善ヒント集)」というツールが用意されています.
ところで,お客様である医療従事者に悩まされることがおありかと思います.特に医師との対応にストレスを感じられている方がいらっしゃる職場もあるかもしれません.そういったストレスを解消するために機構は,「心の健康づくり計画助成金」を用意しています.この助成金も企業の規模は関係ありません.心の病で休職した人をうまく,また現場に復帰してもらうにはどういうサポートを提供したらよいのか,その支援方法は就業規則に,どのように記載したら良いのかのひな形も提供してもらえます.社会保険労務士や弁護士の先生たちにお金を払わなくても済みます.
今,企業においては「健康経営優良銘柄,」や「健康経営優良法人(ホワイト500)といった,経済産業省や東京商工会議所が認定する,働きやすい職場づくりに邁進している企業に対して公的なお墨つきが付与されるという認定制度があります.認定され続けるような,いわば「毛並みのいい」ことが証明された企業も,人材確保においてはライバルになりますので,採用は実に大変だと思いますが,それらライバル企業の向こうを張るためにも,こういった公的助成を活用することも考えてみてはいかがでしょうか.
〈働き方改革に関わる助成金〉
国の助成金の紹介を主にいたします.実務的な面になりますので,理解よりは「そういうものがあるんだ」と,今後,使えそうだなと思える制度はないものかという視点で選考しえるものがありましたら印をつけ,帰ったら人事労務担当の部下や顧問の社労士に確認してもらえたらと思います.
は,今年度や来年のうちに準備しなくてはいけないことを時間軸で整理したものです.真ん中の2021年というのはすなわち来年2020年というオリンピックの年に施行される内容です.2023年度以降になると,いよいよ中小企業も割増賃金を支払わなければならなくなります.経営者の方々におかれましては,今年含めあと4年かけて,残業しないで済むような働かせ方を考えていかないと,残業代として割り増し賃金を支払うことになるわけです.経営状況を悪化させないためにもこの時間軸を踏まえ心づもりに加え,会社に戻られたらご準備を始めてもらえたらと期しています.
中小企業において,今年度取り組み始めてほしいことに労働時間に上限規制というキャップが加わったがあります.
今まで労働時間は青天井でした.それが長時間労働となると,その分過労死や過労自殺が増加することになっていました.自殺者数でいうと毎年2万人以上,平成10年から平成23年までは毎年3万人以上もの方々が命を落としてきました.この14年間で自殺された方々を合計すると43万人である町田市の全人口にあたる方々が自ら命を絶ってきたことになるわけです.従って過重労働を避けましょう,もしくは負担を平準化,平坦化しましょう,あとワークシェアリング,仕事を分担化することで無理なく,無駄がなく,むらがない生産体制,日本全体で対応していこうというのが,とある総理大臣の掛け声だったわけです.働き方改革の目玉として,労働時間の上限,特に残業時間に上限が出たあたりが肝になります.今まで残業時間は青天井だった.それにキャップ,上限を加えた.休日労働を含めて単月あたりの労働時間が100時間を超えてはいけないキャップを加えたのみならず,もともと労働基準法でも残業時間に上限はありましたが,いわゆる36協定と言われる特別条項を労働者と会社側が結べば残業をさせることができた.その特別条項にも年間の上限は720時間までとのキャップを加えたことになります.このキャップはなかなか見事にできています.1ヵ月100時間を超えてはいけません.かつ特別条項,適用のある月は年間6ヵ月までです.6ヵ月特別条項を結んだ月の平均がどんな平均をとっても2ヵ月平均,3ヵ月平均,4ヵ月平均というようにすべての複数月平均でもこの80時間を超えてはいけないという,さまざまな切り口で上限が加えられているので,抜け道はなくなりました.大企業に関してはすでに今年4月からそのようなキャップが加えられています.したがって,労働時間が減った分,会社内部留保は高まっています.残業代がこれまでのようには支払われないので,大企業の労働者においては,収入が減ってきている.そういう労働経済に影響が出始めています.来年以降,中小企業も加えられるので,どのようにして消費を拡大したものかが政策課題となっています.何しろ来る10月からは消費税率が上がります.オリンピック特需も,うち落ち着きます.経済の血液であるお金がまわる仕組みや仕掛けとして,生産性や合理性を高め,かつ新ビジネスに流動化した労働力を配分できるようにしようと,国は様々な助成金制度として予算をつけよう,もしくはつけてきています.
なお,この上限規制に関しては経過措置という猶予措置があります.2020年4月1日(大企業は2019年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定に対してから,この上限規制が適用となります.この36協定を今年10月1日に結び,その後労働基準監督署に届出をしましたということであれば,来年9月30日までは上限規制は猶予となります.最長来年の3月31日火曜日を始期とする36協定を,それまで労使でよくよく考えた末に出すようにすると,2021年3月30日まではこの上限規制の適応を中小企業の場合,猶予することができます.
では,「今まで36協定とか使ったことがないよ」という会社がいらっしゃったら,「スタートアップ労働条件」にて検索されてください.国がひな形を用意してくれていますので利用してみてください.社長名,資本金,本籍地,本拠地を入れ,会社の開始時間等入れると自動的につくられるような,ICTや人工知能を使ったシステムを用意しています.
なお,労働基準監督署配った資料の中には,「中小企業の事情に配慮しながら助言指導を行います」ということも書かれています.そこでは「当分の間、中小事業主に対しこの助言・指導を行うに当たっては、中小企業における労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等を踏まえて行うよう配慮することとしていいます。」(原文のまま).
従って「一生懸命何とか頑張りましたが100時間を超えました」といった場合にも,特段の理由があれば監督官も「やむをえない」と許容してくれるかもしれません.むろん「ご事情はわかりました.ではこのような制度を活用ください」ということで,助成金を使いながらの工夫を実行するよう促すものでしょう.中小企業の方々におかれては,来年の4月までと時間は限られている中ですが,予算は確保されています.
〈「時間外労働等改善助成金」の紹介〉
・「時間外労働等改善助成金」のうち「時間外労働上限設定コース」を冒頭で紹介します.これは生産性の向上を図ることで時間外労働の縮減が可能になるICカードによる労働時間把握ツール,RPA※,労務管理ソフト導入費用,在宅勤務ができるような情報処理機器,外部専門家を交えての業務内容の見直しを実施する場合に支給される助成金です.外部専門家による業務内容の見直しに関しては社会保険労務士や労働紛争に長けた弁護士をお呼びする場合に関しても対象になります.
受給要件としては,先ほど述べた「36協定」での特別条項,上限規制というキャップ内まで短縮させ,かつ労働基準監督署へ届出を出すことになります.
※RPAとは、Robotic Process Automationの略称.業務上,繰り返し行われる作業を自動処理できるソフトです.演者所属の合同会社パラゴンも,演者の厳格な目で選考したRPAを契約先に推薦していますので、以下からお問い合わせ賜れたらご紹介可能です. info@pro-sangyoui.com
なおこの「時間外労働等改善助成金」には「時間外労働上限設定コース」以外に「勤務間インターバル導入コース」,「職場意識改善コース」があり,これら3コースのどれかの助成金支給対象企業として認定され,かつ「雇用管理改善計画」をわずか1年分用意し,その内容が所定の基準に合致していると労働局が認定した場合,国が「労働者を大切にする企業だ」と認めたことになるだけではなく,いわばおまけ,ボーナスがもらえます.それが「人材確保と支援助成金(働き方改革支援コース)」です.“労働者を大切にしたいから”とのことで,働きやすい職場環境をつくり上げるための「時間外労働等改善助成金」の支給対象となるような,労働時間を減らす取り組みを行うことで,いわば「ホワイト企業」の仲間入りを目指す企業に対しては,更に「雇用管理改善計画」を立案するだけで,労働市場から,限られた労働力を確保しやすいように,国家が資金提供を行うようになったわけです.
てつけを国はおまけとしてつくっています.
・「勤務間インターバル導入コース」は,「例えば財前外科部長の手術が17時まで伸びた.その後の打ち合わせで帰ったのが午前1時だった」.そういう人に,最低9時間の休みを与えられるように,翌日の出勤は午前1時から9時間後の午前10時からで構わないというように,「時間外労働上限設定コース」にあるようなICカードによる出退勤管理システムやRPAソフトを導入したり,専門家によるコンサルティングを受けたりした場合,所定の上限額はありますが,所要した費用の4分の3を国が補助してくれる制度です.この「勤務間インターバル導入コース」にて勤務間インターバルを導入するメリットとしては,長時間労働の短縮になるから労働者の健康管理支援になるだけではなく,休憩時間の強制的確保は,中小企業においては将来的に人件費増加を抑止しえます.なぜなら2023年からの月間60時間以上の時間外労働が60時間を超過する場合,50%以上の割増賃金の支払いが必要になるわけですが,その発生を回避できることからです.
・「職場意識改善コース」は,ICカードによる出退勤管理システムを装備したり,RPAソフトを導入したり,専門家によるコンサルティングを受けた結果として所定の特別休暇を新たに導入することができると,それらに要した費用の半分を,50万円まで補助してもらえるコースです.更に従業員の月間平均所定外労働時間数が5時間以上も削減できたら,要した費用の4分の3までかつ上限額が100万円まで増額されます.導入した機器やソフト等が150万だったとしても,会社負担は50万円で済むことになります.
繰り返しになりますが、上記3コースいずれかに取り組んでもらうと共に,所定の基準を満足する「雇用管理改善計画」を立て,1年間実行した後,例えば労働者を新たに雇用すると,「計画達成助成」として一人あたり60万円(短時間労働者の場合には40万円)も,そして10名までの「働き方改革支援コース」という助成金を用意しています.
「雇用管理改善計画」の開始日から3年経過した後,その事業所の生産性が6%以上伸びていて,かつ雇用保険被保険者数が増加していた場合,増加していた人数一人あたり15万円(短時間労働者に関しては10万円)もの「目標達成助成」という“ボーナス”がもらえます.このように,従業員を大切にしたいので,積極的に働きやすい職場づくりに向けた投資を行うという姿勢を実行に移した結果,実際に生産性が高まりかつ,労働者数も増加すると,ボーナスポイントがもらえるだけではなく,過労死発生も抑止でき,更には2023年度からの残業に関する割増賃金を払うことも少なくなるというように,実によく考えられた制度を利用してもらえたらと思います.労働者を雇いやすくなります.
〈同一労働,同一賃金〉
「一億総中流」といわれていたのは40年前の話.各種統計からするとこの30年、二極化がわが国でも進展しています.富める者は子女への教育に投資できます.そうではないものは満足に子供という次世代への教育という投資ができません.その影響はその子が社会人となる場合に露呈します.具体的には満足いく職業に就くことができないと,更にその子である孫の時代にまで影響が持続してしまいます.すなわち遺伝するかのよう.このような格差拡大をなくすためには,満足いく就労の機会を拡大した方がよいという事で、“非正規雇用という名称をなくす”ことを安倍政権は強く掲げる背景にある概念です.そのために今年度中のうちに、大企業も中小企業も関係なく,派遣社員に関して,正社員との間に基本給や賞与は当然,あらゆる待遇に関して不合理な格差があれば,それらを解消しなければならなくなりました.すなわちここにおられる経営者の方々は全員今年度のうちにしないといけないということで課せられていますので,対応をよろしくお願いしたいと思います.
とともに大企業に関しては,派遣社員だけではありません.パートタイマーやアルバイトといわれる時短勤務か有期雇用という形態で就労している人と正社員との間に不合理な待遇差があれば,今年度のうちに解消しなければなりません.
中小企業の場合には,時短勤務か有期雇用契約と正社員との間の格差解消に関しましては今年度ではなくオリンピックイヤーである来年度からの対応で構いません.
なお「不合理な待遇差」と「合理的な待遇差」の違いを紹介します.そのために「均等」と「均衡」の違いをおさえてください.「均等」は読んで字のごとくまるっきり一緒であり,差別してはいけないという意味です.一方,「均衡」とはバランスが取れればいいということです.労働者側が納得しえる合理的な説明ができるのであれば,それは「均衡」がとれているとういことになります.例えば同じ“正社員”であっても,地域や職務限定社員の場合には低い給与でも構わないという理解が得られるような場合です.これは「均等」ではありませんが「均衡」です.これまで,ひょっとしたら社長の胸先三寸や人事部長の“赤鉛筆 舐め舐め評価”で決められていた人事があったとしたら,きちんと労働者側が納得できる理由がないと,今後は「不合理な待遇差」ということで禁止されてしまいます.“従業員が納得する理由を考える必要が出てきて面倒だ!”と捉えるのではなく,長く働いてもらうことで採用コストを下げられたり,会社へ貢献したいという前向きさが向上できると理解すると良いでしょう.
なお,「同一労働同一賃金ガイドライン」トいう,目安も用意されていますのでネット検索されてみてください.望ましい給与明細書の姿も用意されていますので,将来にわたっての人件費の推計も立てやすくなることから,銀行受けもよくなることが期待できます.むろん,「時間外労働等改善助成金」で触れたように,労働紛争に長けた弁護士や特定社労士に相談かつ実施してもらったらよいわけです.何しろ助成金がもらえるわけなので,うまく活用してもらえたらと思います.
〈その他の助成金〉
思うに30年前,法学部や経済学部という,いわゆる文系出身の優秀な学生は銀行や証券会社に就職する時代がありました.それがネットコインという、国家が信用を担保する必要性のない貨幣制度の登場やネット送金という銀行のATMの使用料を支払わなくて済んだり,人工知能に投資額を運用してもらうことが良い利潤を生むものということが期待される時代が到来しています.30年前の優秀な方々を労働市場から退去させることはもったいない話です.違う仕事,違う職種,もう少し自分たちの手に仕事をつけるとか,勉強し直してもらう,そのための助成金も各種用意されています.1つには「キャリアアップ助成金」があります.
定年延長を支援する「65歳超雇用推進助成金」というものもあります.
既に隠れ介護が600万人もいる時代です.「両立支援等助成金」には「介護離職防止支援コース」や女性が出産・育児で退職した人たちを雇用するような「女性活躍加速化コース」といった支援を国は用意していますので,こういった助成金を活用しながら支援,労働者を大切にしていく原資を元手として事業に邁進していってもらえたら幸いに存じます.
なお縦割り行政の弊害なのか,権利の平準化なのか,紹介した公的助成金の申請窓口は.単なる社会保険労務士ではわからない状況です.その点「ちよだ中央経営労務管理事務所」の大野剛一郎先生は申請に長けた社会保険労務士ですので補足記載しました.むろん「職業性ストレスチェック実施センター」の森近宗一郎先生もストレスチェックを依頼される場合に,ある意味 “ついで”に相談してもらうといいかと思います.また中小企業の味方である政政策金融公庫も手助けしてくれます.
なお紹介した公的資料の大半は「厚生労働省,働き方改革」で検索することで入手可能です。