ストレスチェック44|ストレスチェック実施後、働きやすい環境づくりの為に 発達障がい者支援(2017/01/25)
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ストレスチェック44|ストレスチェック実施後、働きやすい環境づくりの為に 発達障がい者支援(2017/01/25)

2017年01月26日(木)11:22 PM

「ストレスチェック実施後、働きやすい環境づくりの為に 発達障がい者支援」執筆.櫻澤博文

ストレスチェックが法制化され、高ストレス者への面接が実施されている中、障がい者支援においては専門家による高度な支援が欠かせません。そこで精神保健福祉士とキャリアカウンセラーによる支援の実際を紹介します。

1.はじめに

ストレスチェック実施の時系列的流れからすると、1月下旬は、より働きやすい職場環境づくりに邁進するという集団への対策に加え、個への支援である面接指導を提供する必要がある時期です。すなわち高ストレス者と区分された労働者に対して、医師による面接を希望するのかを確認し、希望するのであれば2月にかけて、実際に医師による面接指導を実施するよう手筈を整えていく時期にあたります。

メンタル産業医の命名者として筆者は、日ごろより面接医も担っている経験を元に、面接医を初めて担う医師向けの指南書を出してもらいました。しかし産業保健実務は初学者であろうと、現場に出た途端、一人前の医師としての公正な判断を要求される厳しい職務です。中でも障碍者支援においては専門家による高度な支援が欠かせません。そこで今回は精神保健福祉士キャリアコンサルタントという専門家の活躍を記述します。

 

2. 障がい者への公的支援

共生社会の実現に向け平成22年12月から発達障碍者も「障碍者自立支援法」の対象になりました。難治性疾患をもつ労働者の就労支援は、産業保健だけでは十分に提供出来るものではありません。医療や福祉との連携が大切になります。そのために平成23年に改訂された「障碍者基本法」では、障碍者の定義が心身機能の障碍に加え、社会的障壁により継続的に日常生活や社会生活において相当の制限を受ける状態にあることも含まれました。障碍者の支援に対しては障碍者自立支援法が「障碍者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障碍者総合支援法)」に昇華されました。

 

この障碍者総合支援法の訓練等給付には「就労移行支援」と「就労継続支援」とがあります。

 

「就労移行支援」は、利用期間が原則2年(最大3年まで延長可能)で、一般企業への雇用、在宅就労が可能と見込まれる65歳未満の障碍者に対して、個別支援計画(利用者の能力や置かれている環境、日常生活の状況を勘案し利用者の希望する就労、生活上の課題を明らかにし、自立した日常生活を営むことができるように計画された計画)に基づいて、就労移行支援事業所内外で支援を行います。具体的な支援内容としては、複数の下請け作業等を行うことで、仕事への適性を知ることができます。また、実際に企業に出向き、清掃作業や食堂で業務等を行うことで、緊張感を持つことができ、働くことへのイメージをより明確することができます。さらに、就労時に必要なコミュニケーション能力、挨拶や身なり、報告、連絡、相談、マナー等をグループワークや個人ワークを通して習得します。支援終盤には、ハローワークとの連携を図り、利用者の希望や適性にあった求人の開拓を行っていきます。就職後も、余暇の過ごし方の支援、健康管理、職場でのトラブルの解決や相談など働きやすい環境を整えられるよう定期的な連絡を行います。

 

職場定着後は、障碍者の身近な地域において就業に関する相談や日常生活に関する助言をセンター窓口や職場、家庭訪問で行う 「障害者就業・生活支援センター」に引き継ぎます。また、職場で不適応が生じている場合は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供するジョブコーチと連携を図ります。ジョブコーチは、障碍者、事業主、家族に対して支援を行います。障碍者に対しては、作業能率を上げる、作業のミスを減らす等の支援、人間関係やコミュニケーションを改善するため支援を行います。事業主へは、障碍を理解し配慮できるような助言、仕事の内容や指導法を改善するための助言、提案を行います。家族へは、働きながら生活をする障碍者を支えるための助言を行います。

 

「就労継続支援」とは、一般企業に就労することが難しい障碍者に対して、個別支援計画(利用者の能力や置かれている環境、日常生活の状況を勘案し利用者の希望する就労、生活上の課題を明らかにし、自立した日常生活を営むことができるように計画された計画)に基づいて、就労継続支援事業所の内外で職業指導員(障碍に応じて作業内容を考え、効率を上げるための道具の開発や設備の改善、材料発注、売り上げ管理、さらには施設内外の連絡調整なども行う。障害の種類や程度を考慮して作業内容を考え、効率を上げるための道具の開発や設備の改善、材料発注、売り上げ管理、さらには施設内外の連絡調整なども行う。)や生活支援員(作業の指導及び人間関係や不満、将来の不安などについての相談に応じる。)が木工作業、農業、陶芸、縫製作

業、印刷、菓子製造、パーキングや介護施設の清掃などの就労の機会を提供し,その知識や能力の向上のために必要な訓練を行う支援のことを言います。

 

就労継続支援にはA型、B型の2種類があり、 ともに利用期間は定められていません。

 

「就労継続支援A型」は、雇用契約に基づく就労であるので最低賃金が保証されます。対象者は、継続的に就労することが可能な65歳未満の方(利用開始時65歳未満の方)で、就労移行支援事業を利用したが一般企業等の雇用に結びつかなかった方、特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが一般企業の雇用に結びつかなかった方、一般企業等を離職した就労経験のある方です。

 

 

 「就労継続支援B型」は、雇用契約に基づく就労が困難である方が利用し、就労に対して、工賃が支払われます。工賃の全国平均額は、14437円(厚生労働省:平成25年度平均工賃(賃金)月額の実績について)となっています。

対象者は、就労移行支援事業や就労継続支援A型を利用したが一般企業等の雇用に結びつかなかった方、50歳に達している方、障害基礎年金1級受給している方、就労移行支援事業を利用した結果、B型の利用が適当と判断された方、就労経験がある方であって年齢や体力の面で一般企業に雇用されることが困難となった方です。

 

また、「発達障碍者・難治性疾患患者雇用開発助成金制度」やいわゆる「障碍者差別禁止指針」や「合理的配慮指針」が義務化され、障碍者の社会参加を保障する制度が整いつつあります。

 

「発達障碍者・難治性疾患患者雇用開発助成金制度」は発達障害者または難治性疾患患者をハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の職業紹介により、雇用保険の一般被保険者として雇い入れる事業主に対して助成するものです。

 

「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」はコミュニケーションにおける課題を抱えた学生を対象に始まった支援です。これは、ハローワークや地域若者サポートステーション(サポステ)などの就職支援機関において、発達障碍のある人や疑いのある人がそれぞれの機関に相談しにきた場合、発達障碍等の要因によりコミュニケーション能力に困難を抱えている求職者に対して、その希望や特性に応じて、専門支援機関である地域障害者職業センターや発達障害者支援センター等に誘導するとともに、大学などの高等教育機関と連携して円滑なコミュニケーションの推進という支援を通じた就職しやすくする取り組みです。例えば、サポステに相談に来た若者に職業適性検査勧めたり、ハローワークの障害者専門相談窓口につなげるなど、相談機関の連携により、就労のバックアップを図ります。このように各機関で連携・協力しながら就労支援を行うのが「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」の仕組みです。障害者向けの専門支援を希望しない者については、きめ細かな個別相談、支援を実施しています。

 

ハローワークでは発達障碍専門指導監の指導を受けた就職支援ナビゲータによる相談や支援等を受ける事も可能です。

 

これら障碍者雇用納付金制度に基づく各種助成金については、(独)高齢・障碍・求職者雇用支援機構または地域障碍者職業センター雇用支援課(都道府県高齢・障碍者雇用支援センター)へお尋ね下さい。

 

以上を活用しながら、多様性への受容を始めとした社会活動への支障をミニマム化すると共に、障碍者の残存機能を高める支援にて、社会参画を通じた障碍者における自己実現への支援の容易化が適うでしょう。

 

3.専門家の活用例

 

①精神保健福祉士

就労を含めた日常生活における困難さを、当事者やその保護者と共に悩み、少しでも良い方向に向ける努力や支援を提供する専門家に精神保健福祉士がいます。今般のストレスチェック制度では、実施者や補完的面談を担えるとして位置づけられました。しかしそれだけでは本領を発揮してもらえません。精神保健福祉士とは、職場適応に課題のある知的障碍者や精神障碍者、発達障碍者との面談を通じ、その方々の持つ特徴や特性を明確にする専門家です。そして取り巻く課題に関して、事業主に対して面談者の長所やスキルを活かせる環境設定の提案を行う技能を持っています。また、同僚の従業員に対しても、面談者本人了承のもと、障碍特性の理解を促すことで本来の能力を発揮できるような支援を提供する立場でもあります。障碍の理解や発揮しえる職能の啓発を行うためにも、そして適正配置(ジョブマッチング)のためにも、実際の職場で働く経験から見出された、本人の特性や職場側からのニーズを両立させる作業をおろそかにしないためにも、精神保健福祉士の積極的関与が欠かせません。

 

さくらざわの経験した例では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供する「職場適応援助者(ジョブコーチ)」という専門サービスを通じた就労支援がなされることで、就労継続がかなった事例がありました。ジョブコーチは就職又は職場適応に課題のある知的障害者、精神障害者などの雇用の促進及び職業の安定を図るため、障碍者に加え事業主に対しても、障碍特性を踏まえた直接的、専門的な支援を提供する方です。

 

精神保健福祉士である福島の支援例を挙げます。AD/HD (注意欠陥多動性障碍)という特性を持つ男性の場合は、抽象的な言葉でのコミュニケーションが困難、仕事のスケジュール管理ができない、場の空気が読めないなどの特性から、職場内でトラブルが頻繁に生じていました。そこで、本人了承のもと、上司や他従業員に対し、以下の支援を提供してもらうようにしました。

・コミュニケーションを図る際は、具体的な言葉を用い、出来るだけ紙に書きながら説明してもらう。

・スケジュール管理においては、期限を設定し進捗を細かく確認してもらう

・会議における議論から話題が脱線し、その場の状況に相応しくない話題に突入してときは、本人に注意を促す

 

このような取り組みを行ったところ、円滑なコミュニケーションが実行され、人間関係が改善した結果、仕事の能率向上まで図れるに至りました。

 

②キャリアコンサルタント

就労人口が益々減少することを初回に危惧しました。2035年の生産年齢人口はピーク時である1995年比で7割まで落ち込む予測を元に。現在進行形の少子高齢問題解決の為にも、すべての人がその持てる能力を高め、より適した業種・職種・仕事に就くことができると、少ない人数でも生産性が維持、更には向上で期待できましょう。いわゆる左遷され、その才能が活かされずに人材の人在化が行われるケースも良い話ではありません。例えば島耕作も福岡に左遷されたとき、紺野という厭な上司から嫌がらせを受けました。そのような不当な人事処遇ではなく、キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングを通じた、その方のキャリアを見据えた客観的かつ合理的なスキルアップ支援が提供されたり、再就職に必要な技能を身に付けるための職業訓練が充実していたり、そして中途市場が成熟していけば、日本はデフレ脱却が叶い、再度の成長社会に戻ることが適うでしょう。 それは、発達障碍者を始めとした障碍者雇用支援も含まれます。

「発達障害」と診断されたが為に上司から受け入れを拒否され、人事側も退職を企図したものの、キャリアコンサルタントの支援にて、本人の専攻とは異なったものの、適性に合った職種に異動して成功した田村による事例を紹介します。

 

出典:厚生労働省.キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント

 

【きっかけは職場上司からの訴え】

 上司から人事担当を経由して、X年2月にAさん(24歳・学卒)への対応の相談がキャリアコンサルタントのもとに寄せられました。

 職場の訴えは、言われたことしかできない、平気で遅刻をする、本人のミスをカバーしている先輩へのお詫びや感謝の気持ちが感じられない等々の繰り返しで、職場の我慢が限界にきているというものでした。

【キャリアコンサルタントが実施したこと】

 本人との面談を重ねるうちに、1年前頃から自身をうつ病と自己診断し、心療内科のクリニックにかかっていることが分かりました。そこで、産業医より、職場でのエピソードを記載した診療情報提供依頼書を作成してもらい、本人経由で主治医宛に届けました。対する主治医からの返事は「発達障害が疑われるため、専門の医療機関への転院が望ましい」(*原文そのまま)という内容でした。この結果を受けて、元々キャリアコンサルタントとお付き合いのある専門病院で診察、検査を重ねた結果、X年7月に、正式に“広汎性発達障害+ADHD”との診断結果が下されました。更に、県の障害者職業センターの職業適性検査を受けてもらったところ、改めて発達障碍の典型的な特徴が出ていることと、Aさんの得意な能力と不得意な能力や、Aさんに適した職種を確認することが出来ました。

【関係者の反応と対応】

 この時点で、上司は“自職場の業務への適性は無い”とAさんの受け入れを拒否。この会社では入社後、数年で他部門への異動がなされることはない企業体であったことから、人事も社内にAさんに合う職種は無いと判断し、X年9月にAさんの母親も呼んで事情を説明した上で、自主的に退職して自分に合った生き方を探すことを一旦了解する状況になっていました。一方自分の将来に不安を感じたAさんは退職を強硬に拒否しました。

そこで会社は次に関係会社への出向を模索しましたが、受け入れ先を見つけることは出来ませんでした。Aさんの「VPI職業興味検査」(6つの興味領域<現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的>に対する興味の程度と5つの傾向尺度<自己統制、男性-女性、地位志向、稀有反応、黙従反応>がプロフィールで表示される)や適性検査の結果が学校で専攻してきた職能とは全く異なるものだったこともあり、改めて社内での異動先の可能性を検討した結果、当人の興味に適合した業務に従事できる職場への異動を試みることになりました。その候補職場での2か月の試用期間を経て、受け入れ先上司・本人共に前向きな意思が確認できたため、X+1年3月に正式な異動となりました。

 その後、障害者職業センターの職業カウンセラーに、新たな職場の上司へのジョブコーチ(Aさんの障害の説明や指導上の留意点等の助言)やAさんとのフォロー面談も実施してもらいながら今も元気にAさんは仕事をこなすに至っています。受け入れ職場側も、Aさんは、特性にあった業務はそつなくこなせていることから、安心して任すことが出来ています。

 

 この事例の特徴としては、以下の3点が挙げられます。

イ:キャリアコンサルタントへ一番先に相談があった。

ロ:早期に発達障碍の専門医に相談しえた。

ハ:公的機関による支援の有効活用が図れた。今後も上司が変わった時などにも職業カウンセラーからジョブコーチが提供されることになっています。

 

以上のように本人の障碍への理解に基づいた社内関係者の適切な対応(適所への異動による雇用の継続)を引き出すことと、協調しての対応を導くことが可能になりました。

 

現実的には、人事担当者の中には、未だ発達障碍者に対する理解不足からか、今回のような退職勧奨だけではなく、採用させない取り組みを検討するところもあると聞き及んでいます。それは発達障碍者だけではなく精神障碍者雇用の難しさとして日本全体に存在しているのかもしれません。しかしながら、今回の紹介例のように、キャリアコンサルタントを活用することで、当事者、会社、双方がwin-winとなる事例は少なくありません。そのような事例が増えることで、共生社会が進展することを期待しています。

 

4.さいごに

ストレスチェックの実施を経る中で浮かび上がってきた問題が多々あります。応用の利かないシステムを導入させる業者の存在、担当者が使い方に詳しくない業者、協力的でないか集団分析の活かし方を知らない産業医、労働問題に巻き込まれると知らずに面接医に臨むバイト感覚の医師・・・これらに翻弄され困ってきっている実施事務従事者の数々。労働者側も知ってか知らずしてか、高ストレス者はガイドラインで示された数値を基にすると、確かに1割程度、出ています。しかしながら面接を希望する労働者の割合は、国の想定とは大幅に低い値になっています。現場には高ストレスと区分できるメンタル不全者が多く、残されたままで年度が終わることを重ねてはなりません。そのためにキャリアコンサルタン資格を持つ方々が助けになることは今後、記載してまいります。

 

注釈:

キャリア:「経歴」、「経験」、「関連した職務の連鎖」等と表現される、時間的持続性ないしは継続性を持った概念。「キャリア」を積んだ結果が「職業能力」という蓄積されていく有形・無形財産に昇華される。

キャリアコンサルティング:労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと。このキャリアコンサルティングを担う人財がキャリアコンサルタント。

キャリアコンサルタントの国家資格化:厚生労働省では、標準レベルのキャリアコンサルタントに求められる能力体系を定めており、これに対応した養成講座を受講した方等が、キャリアコンサルタントとして活躍しやすくなるように国家資格化しました。 そして今や、キャリアコンサルタントの上級資格であるキャリアコンサルティング技能士という国家資格も取得できるようになっています。

それらの国家資格化等を盛り込んだ「勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律(平成27年法律第72号)」は平成 27 年9月11日 に成立、同年9月18日に公布され平成28年4月に施行されました。

 

 

出典:さくらざわ博文.もう職場から“うつ”を出さない! 労働調査会. 2016年11月15日

 

 

 





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