ストレスチェック49|樋口保隆先生による企業研修の実際


健幸(ウェルビーイング)経営を推進するメンタル産業医で知られる合同会社パラゴン(東京都港区)が株式会社エンプロイーサービス代表で中小企業診断士/事業承継士/キャリアカウンセラー(CDA)であった故樋口保隆先生よりご指導を受けた「職場活性に向けた応用編ーその③ ストレスチェックを企業変革に繋げる キャリアコンサルティングを基にした企業支援の実際」という思い出の情報を提供致します。 

樋口先生は志半ばで2019年3月15日に急逝されまして、コロナ禍で2020年における自死者が11年ぶりに増加したことを解消するためと追悼の想いで以下をまとめなおしました(2021年3月17日追記)。

2023年2月7日追記

樋口先生の一番弟子が、法人向けサービスとして構築されたサイトを紹介することで、樋口先生への御霊の慰霊になればと紹介致します。

サンキャリア|法人サービスページ 

 

  1. はじめに

企業の活性化支援に実のあるサービスを提供するには形式にとらわれてはいけません。既製服ではなく、その企業の実態に合わせたオーダーメイド型の支援方法を考案し、実際に企業変革という到達点まで導くという “ 問題解決力 ” が求められます。ストレスチェックについても同様で、ストレスチェックには、従来、企業を対象に行われてきた「モラルサーベイ」と類似した「集団分析」という、企業の構成要素である個々の労働者を単なる個ではなく集団として捉えた上で、法人という存在者が働きやすい企業風土を構築する解決力を持つ、いわば PDCA サイクルを内包した「マネジメントシステム」だと認識できるからです。ストレスチェックを実施した結果が、労働者の活性化を通じて企業の発展につながれば、事業者は投下した費用や時間という経営資源に対して何倍ものリターンを獲得するでしょう。そして更には、「先んずれば制す」よろしくライバル企業より抜きんでる地位まで確保できるようになれます。実際に樋口先生は、

  • 会社の業務や仕組み
  • 個人の満足感
  • 家族および家庭
  • 自分自身

の 4 領域からの分析が可能な「モラルサーベイ」を基にしたコンサルティングを 10 年以上に渡り契約企業に提供することで、組織の本質的変革とハイパフォーマンスの実現に貢献してこられていました。この「モラルサーベイ」でのコンサルティングサービスに、ストレスチェックをも融合させた「樋口式ストレスチェック」の概要を紹介します。なぜなら、複数のストレスチェックの提供者が述べているように、ストレスチェックそのものを “ 税金 ” や “ やれば良い ” としか捉えることのない企業側の熱意の少なさや、組織変革支援でのノウハウに乏しいストレスチェック提供者が散見されるという現実に対して、「どうにか改善したい!」という合同会社パラゴン(東京都港区)代表の熱意に共感下さったのが樋口先生でした。

         

折角のストレスチェック制度を意義あるものに昇華させる試みになればと樋口先生がお考えになられ、まずはストレスチェック制度の脆弱性を再確認の上で、これを補完するような事業所の「人づくり」に役立ち、企業変革に繋げる仕組みを読者に理解してもらうため「モラルサーベイ」後のコンサルティングを提供してきた「エンプロイー・ヘルス・キャリアシステム」でした。
その具体的な支援方法やその効果、そして、そのトレーニング方法などの特徴を紹介します。

 

  1. ストレスチェックの限界

2015(平成 27) 年 12 月から開始されたストレスチェック制度は、

・労働者のメンタル不調の未然防止

・労働者自身のストレスへの気づきの促し

・ストレスの原因となる職場環境の改善

などを目的としています。

このストレスチェックは、労働者本人がストレスを強く感じている状態(高ストレス状態)にあることに気づき、メンタル不調に陥ることを未然に防止することで、いつまでも高いパフォーマンスをその事業場で発揮し続けてもらうという効果があります。しかし、「職業性ストレス簡易調査票」の開発者すら問題視しているように、事業者がプライバシーに配慮しながらストレスチェックを実施するには面倒な面があり、実施義務に対して形だけの実施という、いわば “ 税金” のような存在としか 認識しない企業も少なくはありません。スレスチェックは個人レベルの心的・動的ストレスを早期に発見し、その対応策を改善することができる点では大変意味がありますが、個々人のキャリアデザインという中長期視点を含めた組織改善に繋げて行くことまでは射程に入っていません。そして、当シリーズで何度も記載がされているように“ キモ” である集団分析の実施は単なる努力義務だから実施不要という企業も多くありますし、また、企業の本質的改革へのノウハウの無い業者の中には、敢えて集団分析に関わらぬよう高い費用を設定することで、企業に選択させ辛くさせているかのような業者もあります。そのような業者に任せた場合は労働者個人レベルのストレスチェックのみで終わり、もし、ノウハウのある業者であれば得られたであろう集団分析による全般的な労働環境、企業の組織の在り方、経営の在り方に繋げる方法論や具体的な手技の提供も期待できません。

出典:下光輝一. 巻頭言. 日本産業衛生学会関東地方会ニュース第 33 号

 

3.「樋口式ストレスチェック」とは

「樋口式ストレスチェック」は、厚生労働省推奨の職業性ストレス簡易調査票 57 項目版に、㈱エンプロイーサービス考案の「モラルサーベイ」での質問項目を組み合わせたものです。労働者一人ひとりの心身の問題を医学的側面から把握すると同時に、その労働者個々の「キャリア」や事業所内の制度の特徴や課題を検出の上で、その事業所集団に対する総合評価ができます。

この総合評価を基にすれば、どのような対策を提供したら良いかの判別ができます。個々人のより良いキャリアデザインを描くことで、人の総和としての推進力が強化され、目標に向かって成長し続ける事業所に導きため、どのような改革や人材育成が必要かが判断できるツールとなっています。

 

4.「樋口式ストレスチェック」実施後の企業変革サービス内容

「樋口式ストレスチェック」実施後、企業に対して提供するサービスが「エンプロイー・ヘルス・キャリアシステム(EHC)」でして、以下の内容で構成されています(図1)。

 

図1.労働者支援制度のスキーム

 

EHCは、ストレスチェック制度の趣旨である働きやすい職場環境づくりに向けた事業所作りへストレスチェックによる集団分析結果を繋げていくことが重要だと考えていることから、このような労働者支援を展開しています。

 

①CCルーム

「CC ルーム」とは「キャリアカウンセリングルーム」の略語で、労働者全員が順番を決められ、必ず一度はその部屋に強制的に訪れる仕組みです。そして、約 1 時間、キャリアウンセラーと 1 対 1 で、仕事のこと、プライベートなこと、将来の人生設計などを話し合う場所を設置しています(図 2)。

図2.CCルームのスキーム

 

経営層から一般労働者、パート社員も含めた全労働者が、人事部が定めた日時に、業務時間を 1 時間割いて順番で訪れることになります。順番が決められているので、1 時間業務を抜けることは全労働者に周知されるため、業務に支障が出ることはありません。また、キャリアカウンセラーとの相談を希望する労働者も、そうでない労働者も強制的に訪れることになるので、他人の目を気にする心理的負担がなく気軽に来室し、話ができる点に特徴があります。

現在でもカウンセラーを実際に配置した相談室を設置する事業所は少なからずあります。しかし多くの場合、相談に訪れる労働者は相談したいことがあるからと自ら希望を挙げて来る人、或いは上司や人事部から個別に指名され仕方なく訪れる人のいずれかでしょう。このような場合は周辺の目を気にしながらの入室になり、敷居が高く感ぜられるという限界があるのではないでしょうか。

その点、この「CC ルーム」は、全労働者を対象としたカウンセリングを提供している点に特徴があります。読者からみれば、「相談ごとのある労働者は、自由に話ができて、その話をしている中で自分の考えや置かれた状況などを整理しながら、自ら気づきを持ってもらうことができるから確かに問題はないでしょう。でも、特に相談ごとのない労働者への対応はどうするのでしょうか?かえって不満を抱く方も出るのではないでしょうか!?」という疑問を抱いたことでしょう。確かにこのサービス内容の説明をすると、ほとんど全ての事業所で同じ疑問を問われます。実際、話すことに気乗りしないような素振りを見せる労働者がいることは事実で、雑談に終始する場合もあります。しかし、その雑談の中にも、日常生活におけるその労働者のストレス要因が、例えば事業所内外の人間関係内にあったり、家族内に潜んでいたりする場合もあります。我々が斡旋しているカウンセラーは、単なる労働者へのインタビュアーではありません。その労働者からの話の背景にある気持ちに思いをはせ、洞察力をもとに気持ちを感じ、共感を示し、その労働者のありとあらゆる現状を推測できるような訓練を積んでいます。練磨されたカウンセラーは、仕事の具体的状況や仕事以外の私的な状況を次から次へと話しやすい雰囲気を形成しながら、労働者を取り巻く状況を緻密に把握し、カウンセラーの見立てた仮説との差異を埋めていく作業を展開していくことで、自分自身では相談ごとなど無いと信じていた労働者にこそ、抑圧していた心の底にある、いわば岩盤規制のような心の辛さを知るに至る場合もありました。

一方、元より活き活きと仕事に取り組んでいたり、日常生活を送ったりしている労働者もいます。逆に、事業所内業務や人間関係に不満を持ったり、家族内に心配事を抱えていたりする労働者もいます。また、将来の人生設計をしっかり構築している労働者もいれば、特に何も考えていない労働者もいます。また、中には、近いうちに転職や退職を考えている方もいます。そのような状況をカウンセラーは把握した上で、面談の後、どのようなフォロー支援が必要なのかを判断します。当然、カウンセラーだけでは判断できないことやメンタル上の問題を抱え産業医や外部の専門医療機関に紹介すべきことも出てきます。そのような中でも、一つだけ大切なことが保証されています。それはこの「CC ルーム」の中の話は、労働者とカウンセラーの 1 対 1 の守秘義務の中で実施されるため、その労働者が望まない限り、外部に漏れることは無いということです。もし、外部専門家や事業者の人事部門に相談をした方が良い場合にも、その労働者の合意を得た上で繋げることを欠かしていません。

この「CC ルーム」の効果には未だ問題が顕在化していないうちに、労働者一人ひとりが自分の現状に気づき、次の行動に移せることにあります。その結果、メンタル不調になる前に気持ちを切り替え、新たな目標作りも含めた中長期的な自分のキャリアを描き始めモチベーションを高めることに繋がります。

そして、事業者側にとっては、メンタル不調での休職者が減少し、離職者が減るという最も望むべき効果をもたらすことになります。

②ハートリボン制度

「CC ルーム」は、外部の専門カウンセラーを所内に配置する方法でした。これに対して、「ハートリボン制度」は、事業所の人員の中から「キャリアカウンセラー」を育成して、事業所内に配置する制度です(図 3)。

 

図3.ハートリボン制度のスキーム

 

キャリアカウンセラー」を事業所内で養成するため、その手始めは上司や人事部門の他薦、または自薦にて、「キャリアカウンセラー」になりたい人員を募集します。従業員 100 名あたり 1 名くらいの割合で「キャリアカウンセラー」を選任したいので、養成に際してはその人数の 1.5 倍〜 2 倍の候補者に「キャリアカウンセラー養成講座」(全 8 回〜 10 回で構成)を受講してもらいます。その講座内でカウンセリング理論やカウンセリングの基本を学んでもらい、筆記試験やカウンセリング実地試験を受けて、適任者を選抜します。なお、その中に一人、リーダーとなる「キャリアカウンセラー」も選抜しておきます。

事業者は、任命したキャリアカウンセラーを事業所内に公表して、相談したい人が直接、キャリアカウンセラーと連絡を取ることで面談を行ってもらいます。キャリアカウンセラーに任命された社員は、本来の業務を遂行しながら、基本的には時間外(就業時間後や休日)に、相談希望者と会いキャリアカウンセリングを行います。

相談したい労働者は、複数のキャリアカウンセラーの中から自分が合いそうなカウンセラーを選び直接連絡を取り、場所や時間を決めて 1 時間のキャリアカウンセリングを受けてもらいます。たとえば、土曜日にどこかの駅近の喫茶店で実施する場合は、なるべく静かな場所で、かつ、個人情報が漏れないような場所を選ぶ下準備が必要になります。

キャリアカウンセリングを終えたキャリアカウンセラーは、リーダーにその旨を報告します。キャリアカウンセラーは業務外活動ですが、このキャリアカウンセリングに掛かった交通費、お茶代、1 時間の残業代を事業者側に請求できるものとします。もし、キャリアカウンセリングの中で重大な問題がある場合は、リーダーと相談して、当人の承諾を得た上で、人事部や専門家に話をつなぐようにします。

以上、基本的な考え方は「CC ルーム」と同じですが、キャリアカウンセラーを外部の専門家に委託する「CC ルーム」と違い、「ハートリボン制度」は事業所内でキャリアカウンセラーを養成する大きな違いがあります。

③キャリアデザイン研修

「キャリアデザイン研修」では、以下の 3つの手法で構成されています。

イ.「80 年の人生時間」

まずは、「80 年の人生時間」を把握してもらいます。「今」も大事ですが、人生 80 年〜 90 年といった長期にわたる人生の中で、変化する外的環境と、自分自身を取り巻く環境変化を可能な限り予測し、10 年後以降の自分のキャリアの在り方を想像してもらいます。

図4.80年の人生時間

 

図4 の説明をします。図中にある「生活必需時間」や「労働時間」の部分も大切ですが、「労働時間」と同じ長さがある「在職中の自由時間」や「定年後の自由時間」が存在することに着目してもらいます。これらは、意識して活用するようにしなければ、あっという間に過ぎ去る人生の一部分ですが、「労働時間」と同じ位の時間的分量があることがわかります。これら二つの自由時間を活用して、例えば趣味や勉強、社会貢献などを行うことが、実は、逆に労働時間に活かされていることに気づいてもらいます。

 

ロ.ライフ・キャリア・レインボー

次に「ライフ・キャリア・レインボー」における 8つの役割の認識をしてもらいます(図 5)。

 

図5.ライフ・キャリア・レインボー(ドナルド・スーパー)

 

人には、生きている間に 8つの役割があると言われています。「息子・娘」「学生」「職業人」「配偶者」「親」「ホームメーカー」「余暇を楽しむ個人」「市民」(ドナルド・スーパーの 8つの役割より)の役割です。人は、この中のいくつかの役割を持っているものです。それが、10 年後、どの役割が増えて、あるいは減って、または、なくなって行くかを予測し、その役割の重要性や占有する時間などがどのように変化するかを考え予測してもらいます。

そして、役割の変化に応じて、時間配分や優先度を決めて、80 年の人生時間を考えることを研修の中で実施しています。

ハ.自分の生きる基軸

3つ目は、夢を描くための「SWOT(内部資源の「強み」・「弱み」、外部資源の「機会」・「脅威」)分析」です。10 年後の“ ありたい姿 ” や “ あるべき姿 ” を思い描き、それが、自分のどんな基軸から描かれたものなのか、また、現状を SWOT 分析して、10 年後のありたい姿に近づくためには、どんな力を付加したり、強化したりする必要があるのかを洗い出し、これからのキャリアを時間軸に沿って描いてもらいます。

この「SWOT 分析」を行い、長期的なキャリアデザインを描き、行動することで、近視眼的な悩みや、小さなことにこだわっていた自分に気づくことができるようになります。そして、思い描いた姿に近づくために、活き活きとした時間を過ごすようになるには、どのように生きていけば良いのかの見通しが得られます。自己戦略として、体系的に分析し、計画し、実行に移していく概念を体系化したのが、図6 の「自分の生きる基軸を持て」という論理的手法です。このように体系的に考えることにより、問題が生じても、後に、その原因を追及できて対策を講じやすくなります。

図6. 自分の生きる基軸を持て

 

4.管理職研修

一橋大学教授の守島基博氏が日本経済新聞 2017 年 3月 24 日朝刊「やさしい/ 経済学」にて、日本企業の組織力脆弱化の理由として、中間管理職には教育や研修を受ける機会が乏しいことを挙げていました。その上で、「要となるべき職場リーダー(中間管理職)が、組織の維持・強化に注力できる環境が必要です」と指摘していました。この中間管理職の環境を整えることが、「個」を組織作りに活かすための最も「キモ」になる部分と考え、今回は、特に中間管理職に焦点をあてた管理職研修について紹介します。

中間管理職たるものは、どのような組織の中においても、最もストレスが掛かる位置付けにあります。過重労働に陥りやすいことは元より、上級管理職と部下の間に挟まれた仕事のストレスや年齢相応のプライベートなストレスなど重圧を受けたり、その重圧から逆に弱者にハラスメントを行ったりすることもありましょう。しかし、実は、その部下である一般社員たちにとっては、最も身近な位置にいる頼もしい存在でもあるのです。従って、研修の中では、中間管理職は、一般社員にとって「一番身近なカウンセラーは中間管理職である」ことを理解してもらい、日ごろの事業所内外での目配り、気配りと、「聴く」ことの重要性を知ってもらいます。なかでも最も大事な部下の話の「聴き方」を実際にトレーニングし、その基本的なスキルを身につけてもらいます。この研修を受けることにより、部下との接し方、部下の考えに耳を傾けることができるようになり、組織のコミュニケーションが活性化され、チームの一体感が生まれ、日ごろのストレスも軽減できるようになります。

 

5.経営職研修

経営職は、常に売上高、経常利益を意識した戦略的財務視点が重要だと言われています。ライバル企業が隣国にあるグローバル社会においては、それが重要な命題であることを否定する人はいないでしょう。しかし、財務の視点だけを意識するとどうしても近視眼的になり、「安全第一、利益第二」ではなく、「利益第一、安全無視(問題先送り)」のように、長期的な視野で “ ものごと ” を見ることができなくなりがちです。

そのような中で、㈱エンプロイーサービスの提供する「経営職研修」は、「従業員満足度(ES)」の向上を経営者が意識することを主眼に置いています。この ES の向上が、引いては「顧客満足度(CS)」の向上につながるからです。確かに短期的に ES を CS に繋ぐことは難しいですが、そういう長期的な視野が経営職には重要であることを理解してもらいます。具体的には、人材採用戦略、従業員に長く働いてもらうための環境整備、技術伝承ノウハウや伝承の仕組みづくり、そして、熟練労働者の活かし方などを経営職に体系的に考えてもらい、それを企業の活性化につなぐことの重要性を学んでもらいます。いわゆる「人づくり」が経営職の最大の仕事であること、を理解してもらう実践型研修で構成されています。

 

6.実績

㈱エンプロイーサービスが「モラルサーベイ」を実施した事業所は 50 を超えていました。うち、集団分析結果を労働者支援に活かした事業所も 33 ありました。事業所規模でいうならば、従業員数 30 名の私的企業から 1 万名を超す大企業も含まれていました。業種は、製造業が最も多く、IT 関係、小売業、商社、ゲーム業界、サービス業と多岐にわたっていました。

「エンプロイー・ヘルス・キャリアサービス(EHC)」のうち、実施した内訳は次の通りです(※)。

 

  • CCルーム採用企業:29
  • ハートリボン制度採用企業:3
  • キャリアデザイン研修採用企業:9
  • 管理職研修採用企業:5
  • 経営職研修採用企業:1

 

※複数のサービス内容を受領した事業所があるため、数字は延べ数になっています。

 

 

また、その結果得られた成果は、次の通りです(複数回答)。

 

  • 離職率の低下:14
  • メンタル不調者の早期発見:27
  • 事業所内でのキャリア支援:16
  • 若手のモチベーションアップ:4
  • 管理職のモチベーションアップ:2
  • パワハラ・セクハラの減少:1
  • 事業所内コミュニケーションの円滑化:1

 

 

これらからも、「樋口式ストレスチェック」は、義務化されたストレスチェックを“ やれば良い” や“ 税金” のように後ろ向きにとらえるのではなく、労働者のメンタルヘルス向上支援や飛躍的な経営革新に貢献できていたことでしょう。

 

  1. その他の話題提供:ワークショップ

故樋口先生は奇数月に一度、主に池袋において実践型キャリア勉強会(ワークショップ)を 10 年に渡り継続開催されていました。その実施回数は 75回を迎えていました。このワークショップは、事業所における労働問題、個人におけるキャリア開発、メンタルヘルスの問題などをケーススタディを基に参加者で議論し、解決していくことを目的とされていたものでした。

午前中はグループディスカッションや発表、午後は、実際の企業内事例を使ったロールプレイングを実施し、そのケースを参加者全員で検討するという全員参加型のワークショップです。そしてこのワークショップには、次のような特徴がありました。

 

午前 10 時〜午後 4 時までの長丁場の中、写真のように、円形スタイルで座ってもらうという工夫を加えているため、上位下位の区別がなく、参加者一人ひとりが、同等の立場で、“ 自分だったらどう考える? ”、“ どう対応するだろうか? ” を考え、それぞれが意見交換を通じて学びあう場が形成されるよう工夫がこらされていました。

 

そのロールプレイングについても全く形式にこだわりはありませんでした。従って、自由闊達な雰囲気と互いを尊重しあう良好な集団力学が、毎回作用していました。


カウンセリング技法についても、“ 上手い ”、“ 下手 ” という価値判断ではなく、“ 自分なら面談希望者に対してどう対応するだろうか? ” を、代表ロールプレイングを観察しながら、疑似で体感してもらい当事者意識を持ち、考えてもらう工夫が込められていました。

そして、それを発表してもらう場も用意しています。そうすることで、他の参加者においても“ なるほど、そういう視点があったか! ” と、ヒントを提供することにつながるという特徴がありました。

午前中のケーススタディのテーマと午後のロールプレイングの事例は、一つのテーマでつながるように構成されていました。この構成により、参加者は、その日の一つのテーマに沿って、多様な事例を体験することから、複数学び、多数感じることができます。一つではないため、現実という世界でも実際に活かせる方法や手段を、それらの中から選択することで、実際に問題解決に駆使していけるようになっていました。

カウンセラー役とクライエント役のロールプレイングの風景です。複数回の参加で、カウンセラー役とクライエント役との両方の経験を積むことができます。樋口先生の信念として、カウンセリングの場において、正解は一つではなく、カウンセラーが 100 人いれば 100 通りの解決方法があると考えての構成でした。つまり、カウンセラーには、「このように対応しなければならない」などといった決まりはないと考えています。従って、このセミナーのカウンセラー役には、“ 自由に自分が思うようにカウンセリングを執り行ってもらって構わない ” ということを保証しています。実際、カウンセラーを生業にしている経験豊かな方が、カウンセリング未経験な方からの視点や発想により、それまで考えたこともない新鮮な気づきを得られることもしばしばあります。主催者としても毎回、興味深く感じたり、学んだりと得ることが多くあります。

一方、クライエント役には、1 週間ほど前にその事例を渡し、男優や女優として、その役になりきれるように事前に練習をしてきてもらうという“ 仕込み ” をしています。クライエント役を演じる中で、「カウンセラーのこの言葉はきつかった」、「この言葉は心に響いた」などとクライエントの疑似感覚を味わってもらうことが、後日、職場にて自分がカウンセラーになったときに役立つことを狙っているからです。クライエント役の事例は、まさに働く現場の人たちの叫び声です。このクライエント役をしっかりと演じることが、実際のカウンセリングに役立つものだと樋口先生は参加者の方々に伝えてこられていました。実際、数多くのクライエント役の経験は、多様な場面で役立つことになると考えてのことでした。

樋口先生亡き後の後続となる勉強会の模様は以下で紹介しました。

参考サイト:メンタル産業医による第76回実践キャリア勉強会「動機づけ面接オンラインセミナー」満員御礼報告(20/10/11)

また樋口先生の㈱エンプロイーサービスにて、同社を運営・経営されていた水谷典子様のことは以下で取り上げております。

 

参考サイト:株式会社キャリアスカイをメンタル産業医が推薦(19/10/03)

 

さいごに

今回、㈱エンプロイーサービスに集まったカウンセリング等の結果を樋口先生が綴った原稿を元にこのブログを構成しました。

彼がキャリアコンサルタントになった背景を記載します。

工学博士号を持つ原子力エンジニアとして世界を飛び回っていました。その彼がキャリア支援の世界に飛び込んだきっかけは、原子力事故のあった後の日米の労働者の違いの要因を知ってからでした。
日本では博士号を持つ労働者でも事故後の1-2年は工場の草取りで過ごすのでメンタル失調者が増えるそうですが、同じ境遇の米国の高学歴労働者は大変に元気だったとか。それでその理由を聞いたら、“俺達にはキャリアカウンセラーが付いている”との答えで俄然、樋口氏は興味が沸いたそうです。

これらは実際の現場で働く労働者の生の声の集約だと樋口先生は述懐されていました。

社会情勢・労働環境の変化の中で、我々は常にこの現場で血や汗を流しながら懸命に労働という営みをつむぐ、生身の人間の肉声に耳を傾け、それらの集積を労働する事業所という職場環境の改革に繋げる取り組みを行ってきているものです。それらの事例を基にした研修やカウンセリングを提供している中で、これらのサービス内容も、画一的な固定したものではなく、臨機応変に「変化是進化、不変非普遍」という柔軟性…心理学用語でのレジリエンスの大切さを学ぶことができる、いわば生きた教材です。

 

仔細は以下で学べます。

 

 

出典:キャリアコンサルティングに活かせる 働きやすい職場づくりのヒント 金剛出版