ストレスチェック その9|受検しない労働者の取り扱いに関して

ストレスチェック制度(ストレスチェック及び面接指導)についての解説シリーズその9です。

ストレスチェック制度では、ストレスチェックの結果から、高ストレス者と区分された従業員が、希望したら医師による面接指導を受ける権利が労働者側に保証されています。では、初年度の2016年にこの面接指導が実施された割合(面接指導実施率)はどれだけでしょうか。厚生労働省が2017年7月26日に公表した以下の表では、企業規模に応じて増加しています。

 

表 医師による面接指導の実施率(面接指導実施率)と受けた労働者の割合(受診率)

規模

面接指導実施率[%]

受診率[%]

50-99

22.6

0.8

100-299

36.9

0.7

300-999

61.0

0.6

1,000~

85.0

0.5

全体

32.7

0.6

 

 

他方、実際に医師による面接指導を受けた従業員の割合は、企業規模に反比例しています。

この理由は以下と考察できます。

◆企業規模が小さい程、メンタルヘルス対策への取組が十分ではありませんでした。企業規模が小さい事業所での実需を、ストレスチェック制度が補完した可能性がある。

初年度より医師による面接制度を実施していた事業所は、労働者想いの企業である可能性がある。

 

・グローバル社会の中、国外市場において戦わなければならない国内企業からしたら、労働法規に因る規制緩和や撤廃を求めている中です。規制強化の動きは内心、歓迎したくはない思いがあるものと想像しております。

・これまで先行したメンタルヘルス対策を進展させてきた大企業であれば、ストレスチェックでひっかかった労働者が産業医等による医師面接に臨むことへの同僚からの視線や、面接に所要するコスト面に対する事業者からの抵抗は少ないでしょう。でも中小企業の場合には、以下が想定されます。ストレスチェックにひっかかったことを事業者側に労働者が同意して通知がなされたとたん、不利益な取り扱いは禁止されているとしても退職を強要される可能性は棄てきれません。したがって無理をおす労働者が出る場合が想定しえます。

また、いくら「知らないこと」が安全配慮義務を総裁するには不十分だとする判例(解雇無効確認等請求事件 平成26年3月24日最高裁第二小法廷)があっても、事業者においては“通知がないからもっと働かせて大丈夫だ!”と捉え、労働者に更なる過重をかけてくる場合も想定できます。将来的に過労死や過労自死(自殺)につながった場合、“(ストレスチェックにひっかかったのに通知を希望しなかった)労働者側が悪い!”と言い逃れする経営者が出ることが想定しえます。

これらに対しては、この「ストレスチェック制度」は病人探しではなく、労働者が肉体的なだけではなく精神的にもより健康に、生き生きと働くことが可能な、生産的かつ合理的な職場環境の整備を目指したものです。事業者が丁寧な対応を、衛生管理者や『プロフェッショナル産業医』らと執り行うことで、グローバル社会の中であっても、サバイバビリティや持続継続性をより具有しやすくなっていくものと期しております。

出典:厚生労働省ストレスチェック制度関連法令等

では受検しない労働者に対しては、どのように扱ったら良いのでしょうか。

それには、法律に規定されているもののほか、少なくとも、以下に掲げる不利益な取扱いについては合理的な理由がないため、事業者が行ってはならないものとされています。
また、不利益取扱いの理由が以下に掲げる理由以外のものであったとしても、実質的に以下①~③に該当するとみなされる場合には、同様に事業者が行ってはならないものとしてみなされますので注意が必要です。

① ストレスチェックを受けない労働者に対して、受けないことを理由に、不利益な取扱いを事業者が行うこと。
② 個人のストレスチェック結果の提供に同意しない労働者に対して、同意しないことを理由に、不利益な取扱いを事業者が行うこと。
③ 面接指導の要件を満たしているにもかかわらず、面接指導の申出を行わない労働者に対して、申出を行わないことを理由に、不利益な取扱いを事業者が行うこと。

禁止されるべき不利益取扱いとしては、労働者が受検しないこと等を理由とした不利益取扱いとされています。
法律上明示的に禁止されている不利益取扱いとしては、労働安全衛生法第66 条の10 第3項の規定により、事業者は、労働者が面接指導の申出をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないとされています。この規定の趣旨は以下のとおりです。

① メンタルヘルス不調の未然防止を図るためには、要件に該当する者には面接指導を受けてもらう必要があります。従って面接指導の申出が行いやすい環境を整備する観点から、申出という行為をしたことを理由に、労働者に対する不利益な取扱いを事業者が行うことを禁止しました。
② 申出を受けた時点で事業者が有する情報は、個人のストレスチェック結果のみです。それだけで就業上の措置の要否や内容を判断することはできないため、この情報のみをもって、労働者に対する不利益な取扱いを事業者が行うことを禁止しました。

出典:厚生労働省.政策について

 

 

出典:厚生労働省ストレスチェック導入マニュアル